グスタフ・クリムトが1918年の逝去前に描いた最後の肖像画と思われる《Dame mit Fächer(扇を持つ女)》(1918)が、6月27日にサザビーズ・ロンドンで開催されるモダン&コンテンポラリー・イヴニング・オークションに出品される。予想落札価格は6500万ポンド/8000万ドル(約113億円)。
1918年2月、クリムトが急逝した当時、画家のアトリエにあるイーゼルに置かれたままだったという同作。作品の中央には、着物風の衣服を着用し、扇子を持つ女性が描かれており、背景には鳳凰や蓮の花など、東洋の文化や芸術を思わせる模様が飾られている。
この作品についてサザビーズ・ロンドンの印象派・近代美術イブニングセール部長であるトーマス・ボイド・ボウマンは、次のように述べている。「この肖像画の美しさと官能性は、細部にある。青とピンクの斑点が肌を生き生きさせ、まつ毛の羽状の線、すぼめた唇が顔に特徴を与えている。クリムトは、破壊的なまでの美女を自由にキャンバスに収めたのだ。彼女の挑発的にむき出しになった肩、冷静さ、静かな自己肯定感が、見事な効果を生み出している」。
同作は、クリムトの死後まもなく、ウィーンの実業家でありクリムトとエゴン・シーレの親しい友人/パトロンであるエルヴィン・ベーラーによって入手。後にエルヴィンの兄ハインリッヒ、1940年にはハインリッヒの妻メイベルの手に渡った。67年には、オーストリアのレオポルド美術館の創設者であるルドルフ・レオポルドのコレクションになり、約30年前の1994年に現オーナーの家族が購入したのは最後に売りに出されたことだった。
クリムトの風景画《Insel im Attersee》が今年5月に日本人の個人コレクターによって5320万ドル(約73億円)で落札されたことがまだ記憶に新しい。その風景画のもう1点《Birch Forest》は、昨年クリスティーズ・ニューヨークで行われたポール・G・アレンのコレクションセールにて1億458万ドル(約153億円)で落札され、現在画家のオークションレポートを記録している。
しかしクリムトの肖像画のうち、個人所有のものは数少なく、オークションに出品されたことも極めて珍しい。過去には1点のみで、2006年にクリスティーズで8790万ドルで落札された1912年の作品《Portrait of Adele Bloch-Bauer II》だ。今回の作品の落札は、クリムトの作品だけでなく、ヨーロッパのオークションに出品された作品のなかでももっとも高額なもののひとつになる。
なお6月27日のイヴニング・オークションには、アルベルト・ジャコメッティやエドヴァルド・ムンク、エリザベス・ペイトン、ケリー・ジェームズ・マーシャルなどによる作品も出品。同セールのハイライトは、6月20日〜27日にサザビーズ・ロンドンのギャラリーで展示される予定だ。