トーマス・ルフ、日本初の回顧展
開幕「写真はさらに発展する」

現代写真の世界において最も重要なアーティストのひとり、トーマス・ルフの日本初となる美術館個展が8月30日より東京国立近代美術館で開催される。2013年に国立新美術館で個展を開催したアンドレアス・グルスキーに続く、「ベッヒャー派」の展覧会としても、開幕前より話題を集めていた。本展は18シリーズ、122点の作品で構成。初期の「Interieurs」(Interiors)やルフの代名詞的存在でもある「Porträts」(Portrait)をはじめとする代表作が集まるほか、最新作の「press++」シリーズでは、本展が世界初公開となる作品も展示されている。

トーマス・ルフ

 「1977年にデュッセルドルフの芸術アカデミーに進んだとき、そして80年代初頭に仲間たちと一緒に写真に本格的に関わるようになったとき、まさか自分がこのように東京の国立近代美術館で個展を開催できるとは夢にも思っていませんでした」。開幕前日の記者会見でこのように切り出したトーマス・ルフ。

 現代写真の世界でいまや大きな注目を集める存在だが、「あの時代において写真というのは一級ではない、という認識のなかで私たちは生きていたのです。写真はあくまで二級である。到底一級と認められることはないだろう」と過去の思いを吐露。「しかし私たちはベストを尽くし、最高に美しいと思える写真をつくっていこうではないか。ただその一方で生活のためには、おそらく生涯にわたって、人から依頼されたものを受けてやっていくしかないだろう。そう受け入れていました。しかし39年ほどの間で、写真を取り巻く状況が大きく変わり、(一人の写真家として)このような回顧展が開催できるとはまさか、という気持ちがあります」と感慨を語った。

 最も古いものでは、アカデミーに在学していた1979年の作品も含まれてる本展。ルフは「今回の展覧会を通じて、写真の歴史、その全容をご覧いただけるのではないかと思っています」と言う。アナログの時代から完全にデジタルな時代まで、その時代に応じたテクノロジーを駆使して表現に取り入れてきたルフならではの言葉だろう。

 そして「写真のテクノロジーは更に飛躍し、発展していくことは間違いありません。大いに素晴らしい未来がこれからも拓かれていくことを確信しており、断言します」と続ける。

 ポートレート写真を巨大化させた「Porträts」(Portraits)から始まり、初めてコンピューター上の画像処理を行った「Häuser」(Houses)、モンタージュ合成写真機を使用して制作された「andere Porträts」(another Portraits)などを経て、日本の成人向けコミックやアニメから取り込んだ画像に幾重もの処理を施した「Substrate」(Substrates)、ウェブサイトからダウンロードしたJPEG画像などを素材にして、圧縮率を高め、画素密度を下げた「jpeg」、宇宙探査船が撮影した土星とその衛星の画像を素材にした「cassini」、そして昨年からスタートした日米の報道機関から入手した写真原稿の両面をスキャンし、1つの画面に統合する「press++」など回顧展にふさわしい多様な作品の数々。これからも発展していくであろうトーマス・ルフの現在がここにある。

会場に入ってすぐに目に入るのが「Porträts」(Portraits)シリーズ
右手には「jpeg」シリーズ、左手には「l.m.v.d.r.」が見える
立体視を利用した「Stereofotos」(Stereo-photos)。ボックスの中央には鏡がはめ込まれている ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016
会場に用意された3Dメガネを使って鑑賞する「3D_m.a.r.s.」シリーズ
原型をとどめないほどに画像処理ソフトで加工された「Substrate」シリーズ
2008年から制作されている「cassini」シリーズ
本展が世界初公開となった《press++ 11.07》。ルフが日本での個展のために読売新聞社に協力を呼びかけ、同社のアーカイブを使用している ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016

編集部

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