細川家伝来の美術工芸品や歴史資料を保存・公開する美術館として設立された東京・文京区の永青文庫が、所蔵する文化財の修理支援のためのクラウドファンディング「文化財修理プロジェクト」の募集を開始した。
永青文庫は細川護立によって1950年に設立。9万点を超えるコレクションには国宝8件や重要文化財34件が含まれており、武器武具・書画・彫刻・茶道具・能道具・歴史資料・古典籍などその分野は多岐にわたる。日本だけでなく中国をはじめとした東洋の美術工芸品も多く、紀元前から近代まで幅広い時代の作品を所蔵していることも特徴だ。
こうした永青文庫の所蔵品のなかには、修理が必要な作品が多く含まれており、経年による損傷が激しいために公開を断念せざるを得ないものや、慎重な取り扱いを要するものも多数あるという。同館はこれまで、国宝や重要文化財については国などの補助を受けることで修理を行ってきたが、指定文化財以外は修理費用をほとんど確保できていなかった。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大による休館も同館の運営に大きな打撃を与え、修理費用の確保がますます困難となった。
こうした状況の打開策として、クラウドファンディングサービス「READYFOR」を通じ、クラウドファンディングによる修理費用の支援を募集することになったという。
「文化財修理プロジェクト」の第1弾では近代日本画の名品である、菱田春草《黒き猫》(1910)と松岡映丘《室君》(1916)、横山大観・下村観山・竹内栖鳳《観音猿鶴》(1910頃)の3品の修復支援を募集する。
春草の《黒き猫》は菱田春草の代表作のひとつである重要文化財。墨のぼかしによってやわらかな毛並みが表現された猫の姿は人気が高く、同館を象徴する作品のひとつだ。描かれてから100年以上が経過したことで裏打ちに浮きが見られ、絵具が剥落する恐れがあるため仕立て直しが必要とされている。
映丘の《室君》は昨年新たに重要文化財に指定された作品で、やまと絵に新たな解釈を加えた作品として当時高く評価された、映丘の出世作。画面全体に汚れやシミが出ており、それらを緩和および除去する必要がある。
そして《観音猿鶴》は、大観が鶴、観山が観音、栖鳳が猿を描いた三幅対。永青文庫の設立者・細川護立の依頼により制作され、当時の日本画壇を代表する3人の画家が手掛けた貴重な合作だ。軸木に入った鉛が作品を傷つける恐れがあるため、軸木の交換が求められている。
本プロジェクトは今後も、よく知られた作品のみならず、現時点では無名の作品にも目を向けていくという。文化財修理と並行して丁寧な調査研究を継続することで、それらの価値を再発見し、広く発信していくことを目指す。
支援のコースは3000円から100万円まで様々。ポーチや名刺入れ、期間中何度も入館ができるサポーターパスといった特典も用意されている。
支援の詳細は「READY FOR」の永青文庫クラウドファンディングのウェブサイトでチェックしてほしい。