キヤノンが主催し、写真表現の可能性に挑戦する新人写真家の発掘・育成・支援を目的とした文化支援プロジェクト「写真新世紀」。今年で30年目を迎えた同プロジェクトが、2020年度のグランプリを樋口誠也に決定した。
今年のプロジェクトは、3月18日〜5月31日の期間で募集を行い、国内外から過去最多となる2002名(組)の応募があった。6月の優秀賞選出審査会で、優秀賞受賞者7名と佳作受賞者14名が選出され、10月30日に行われたグランプリ選出公開審査会では、優秀賞受賞者7名のプレゼンテーションおよび審査員との質疑応答を経て、審査員の合議によりグランプリが決定した。
樋口には、奨励金として100万円ならびに副賞としてキヤノンのミラーレスカメラと交換レンズが贈呈。次年度における新作個展開催の権利も授与される。受賞作品「some things do not flow in the water」は、樋口が日本とシンガポールの歴史に関係のある場所で撮影された写真プリントと一緒にシャワーを浴び、インクが剥がれた写真を見ながら、そこに写っていたものを思い出す過程を記録した映像作品だ。
受賞の感想について、樋口は次のように語っている。「自分の作品をこのような場で多くの方々に見ていただけたことだけでも非常に嬉しく思っています。さらに審査員の方々からも鋭い指摘やコメントをいただくことができ、今後の活動の参考になりました。嬉しさとともに、今後に向けたプレッシャーもあります。今後も自分が気になったことに純粋に興味を持って、無理に言葉を繕うことなく真摯に作品をつくっていきたいと思っています」。
また審査員の椹木野衣は、樋口のグランプリ受賞について次のようにコメントしている。「今年はコロナ禍で応募数がどうなるか心配していましたが、過去最多の2002点の応募があり、過去最大の競争率のなかでグランプリを獲得したのは見事な成果だと思います。彼の展示の本当の魅力は、方法論的なことだけではなくてコンセプチュアルな行為をあえて写真と裸の付き合いとして自らの身体を使って試み、言葉のセンスも感じられました。どうしても固くなりがちな主題ではありますが、そこにユーモアと言って良いような柔らかな視点が感じられたことも評価に値します」。
また、今年の「写真新世紀」について椹木はこう続ける。「今年の総評としては、今年のキーワードともいえる『距離(distance)』が応募作品全体的の傾向として感じられました。人と物との距離をどのようにして“とる”のか、これは写真に限らない問題であり、大きなひとつのテーマだと思います。依然として未知の時代に我々が直面していることは間違いなく事実で、表現する人は一歩前進・一歩後退という試行錯誤を恐れずに、果敢に新しい写真の可能性を探究してほしいと思います」。
樋口に加え、今年の優秀賞を受賞したのは、金田剛、後藤理一郎、セルゲイ・バカノフ、立川清志楼、宮本博史、吉村泰英の7名。また、佳作を石川古雨、石川琢也、小川修司、郭勇志、柏田テツヲ、河津晃平、五味航、澤田詩園、志賀耕太、高崎恵、ダビド・ナタナエル・ロブ、塚原誠、遠山寛人、藤原香織の14名が受賞。これらの優秀賞および佳作の受賞作品は、11月15日まで東京都写真美術館にて開催中の「写真新世紀展2020」で展示されている。