2020.10.29

日本博物館協会が「新型コロナウイルス感染予防の対応状況に係る緊急アンケート」の結果を発表。全国の博物館の対策や課題が明らかに

公益財団法人日本博物館協会(日博協)は、新型コロナウイルス感染予防の対応状況に係る緊急アンケートの結果について発表した。この緊急アンケートは、9月1日〜9月15日に、博物館園職員を対象に、新型コロナウイルスの感染予防対策や、現場の事業展開、現状と今後への課題等についてウェブアンケート形式で調査したもの。

「新型コロナウイルス感染予防の対応状況に係る緊急アンケート」より
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 公益財団法人日本博物館協会(日博協)は、「新型コロナウイルス感染予防の対応状況に係る緊急アンケート」の結果について発表した。この緊急アンケートは、9月1日〜9月15日の期間、博物館園職員を対象に、新型コロナウイルスの感染予防対策や、現場の事業展開、現状と今後への課題等についてウェブアンケート形式で調査したもの。回答施設数は709館にのぼった。

 まず、閉館をしていた時期についてのアンケートでは、7都府県が緊急事態宣言を発令した4月7日を境に休館する館が増えていき、5月1日前後には700館近くが休館を余儀なくされたことがわかった。その後、5月17日に大都市圏を除き緊急事態宣言が解除されると、開館する館が増え始め、5月25日の前面解除を経た6月より、多くの館が再開している。

「新型コロナウイルス感染予防の対応状況に係る緊急アンケート」より

 コロナウイルス対策としては、回答したすべての館が職員のマスク・フェイスシールドの着用や、ビニールシート・アクリル板の仕切りの設置といった対策をしていた。また、ほぼすべての館が来館者に対してマスク着用の義務づけや推奨を行い、アルコール消毒も実施している。これらの対策はもはや、博物館や美術館が開館するうえで、最低限実施すべきだという認識が広がったと言えるだろう。

 来館者への検温については、回答館の半数を超える445館が「している」と回答。検温方法としては、297館が非接触型体温計を、115館が赤外線サーモグラフィーカメラを導入しており、さらに赤外線サーモで異常が検知された場合は非接触型で確認する、団体受入時はサーモを使用するといった、両者を併用する館も多いようだ。

 ウェブを使った来館予約システムについては、導入済みが55館、導入検討中が36館に留まり、471館は導入の予定がないと回答した。電話での来館予約を実施している館も61館あった。予約システムを導入するためのコストや人員が足りていない館も多く、今後の利用者の利便性を考えるうえでも、普及のための支援が必要と言える。

 来館者の3密を避けるための施策としては、ソーシャルディスタンスの表示や、職員による呼びかけといった基本的なもの以外にも、様々な対策が実施されていることがわかった。具体的には「滞留時間を下げるため自由導線を強制導線に変更」「立ち止まって見学する時にはフットプリントのシールの貼りつけで場所を特定」「ゴム手袋を配布し着用してもらう」「展示室内における会話の禁止」「過密想定箇所の閉鎖」など。すでに利用者による対策意識が高まっているとはいえ、観覧中でも随所で感染拡大防止を心がけてもらうことは依然として重要な事項であり、そのための創意工夫がうかがえた。

 休館中の博物館の情報を広く発信するために、ウェブサイトやSNSの活用も活発化した。ウェブ等による情報発信については511館が実施したと回答し、その内容の多くは施設紹介や展示紹介・解説となった。これまでウェブの利用に積極的ではなかった館が、コロナを契機に取り組むようになったという事例も見られ、博物館の広報意識の変化が感じられる結果となった。なお、情報発信に利用した外部メディアの内訳は、258館がTwitter、132館がInstagram、247館がFacebook、197館がYouTubeとなっている(複数回答可)。

 現時点での経営上・運営上の課題として、事業継続を挙げた館は191館に上った。5月には航空科学博物館(千葉・芝山市)が入館者数減少によりクラウドファンディングで寄付を募り2000万円を集めることに成功したが、他にも事業継続についても危機意識を持つ館が少なくないことがわかる。クラウドファンディングのように一般からの善意の支援を募ることも効果的だが、確かな文化政策としての行政支援も期待したいところだ。

 各館が今後必要と考えている行政や援助団体からの具体的な支援としては、消毒用のアルコールやマスク、タッチパネルに代わる人感センサー、サーモグラフィー、館内のWifi環境整備といった備品や設備への補助金があげられた。また、貸館業務が重要な財源となっている館からはそのキャンセルに関する営業補償が、指定管理者制度で運用される館ではその管理費に対する支援が挙げられた。金銭的な支援といっても、その用途は様々であり、各館の状況を見極めた柔軟な支援が必要とされていることがわかる。

 また、今回の新型コロナウイルスによる影響は、独立行政法人制度や利用料金制の指定管理者制度により、自己収入増に取り組んでいた館ほど減収の影響が大きいという問題も回答のなかで指摘されている。今後も政府が自己収入増の取り組みを推進するのであれば、今回のコロナ禍のような状況に陥った場合のセーフティネットを整備しないと改革が進みにくくなる可能性がある。

 最後に、今回のコロナ禍をきっかけに博物館はどう変わるべきか、今後の望ましい博物館像についての自由記述の回答を紹介する。

 「集客だけにとらわれない事業のあり方、より地域に密着した活動、展覧会だけではない地域の特色や魅力発信の方法を検討すべき」「その地域のことを地道に調査研究し、その成果を地域に還元していくという、基本理念に立ち返るべき」「比較的年配の方を中心に集客してきた館については、新たな客層への切り替えが必須。過去の縛りに捕らわれることなく、柔軟にアイデアを出していきたい」「ハンズオンに拘らない新しい体験型の展示、ワー クショップのあり方を模索」「博物館に足を運ばなくても、リモート活用することで、展示紹介等が活発化したので、誰にでも活用しやすい学習施設としての博物館像を検討していくべきではないかと考える」「よりよい鑑賞環境=展示品の保全環境の提供という意味では入館予約制は普及してもいいと考える」。

 再び地域に目を向けて、地道な調査研究活動を重視するといった地元志向の姿勢や、また入館予約制によるメリットなど、新型コロナウイルスが与えた負の側面のみならず、それによって生まれた気づきをポジティブにとらえて意識改革に乗り出す館も少なくないことがわかった。

 なお、今回のアンケートを実施した日博協は、「博物館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」を5月14日に制定、さらに9月18日には改定をしている。このガイドラインについては、188館が「大いに役に立った」、399館が「役に立った」と回答した。

 同協会は、今回の回答結果と寄せられた意見を踏まえて今後の感染予防対策に取り組むとともに、必要に応じて今後も継続的な調査を実施するとしている。効果的な支援を行っていくうえでも、支援団体や行政にはぜひ参照してほしいアンケート結果となった。