2020.4.15

ギャラリーが直面する新型コロナウイルスによる損失。その実状となすべきアクションとは?

世界的な新型コロナウイルスの流行は、アート・マーケットにも大きな経済的損失をもたらしている。マーケットに作品を供給するギャラリーはこの状況をどのようにとらえ、対応をしていくのか。NUKAGA GALLERY、KOTARO NUKAGA等の代表を務める額賀古太郎と、MAHO KUBOTA GALLERY代表の久保田真帆に話を聞いた。

文=安原真広(ウェブ版「美術手帖」編集部) 

左からNUKAGA GALLERY、MAHO KUBOTA GALLERY
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 世界的な新型コロナウイルスの流行による経済への打撃は、アート・マーケットにおける重要なプレイヤーであるギャラリーにも及んでいる。アートフェアの開催中止や延期、ギャラリースペースの休廊やアポイント制への切り替えといった事態により、どのような損失が出ているのか。また、今後考えられる施策とは何か。東京・銀座のNUKAGA GALLERYと天王洲のKOTARO NUKAGAを運営する額賀古太郎と、東京・外苑前のMAHO KUBOTA GALLERY代表・久保田真帆に現状と今後の施策を聞いた。

オンライン活用は必須だが、重要なのは信念に基づいた活動

 額賀は売り上げの状況について、「アートフェアの中止や、展覧会来場者数の減少もあり、コロナウイルスの影響は多分にある」とし、オンラインの活用については次のように語った。「通常のギャラリー営業が出来ないなか、自社のSNSやウェブサイトで作品を閲覧できるようにすることは必須であり、例えば『OIL by 美術手帖』のような他社の提供するオンラインプラットフォームを活用した販売は重要性を増していくと感じている」。

 そのうえで額賀は「今回の事態がきっかけとなり、アートの価値の創出方法にも変化が起こるだろう」とするが、いっぽうでこうも述べる。「アートにおいてはコマーシャリズムが優先されるべきではなく、アーティストもギャラリーも信念に基づいた活動の結果、社会が作品に価値を見出すのであって、やみくもにオンライン等で販売をすればよいというわけではないと思う。ギャラリーを運営する身としても気持ちを引き締めなければならないが、近年林立した新しいサービスも淘汰される可能性はある。今後は多様化する販売方法の中で、一人ひとりのアーティストのキャリアを考えながら適宜検討していく」。

 そして、今後の展開については以下のような考えを示した。「ウイルス感染の蔓延への対応、そして経済補償の問題が後手後手に回っている日本のマーケットは今後どのような曲線を描き回復するのかわからない。海外でもロックダウンの影響などでアーティストのスタジオがクローズしたりと、活動の幅は一時的に制限されている。そして日本人アーティストも展覧会の中止などで活動の場を失いつつある。しかし、このような状況下だからこそ、アーティストにもギャラリーにも出来ることはあるはずだ。アートの意義が究極的には『より良い社会を実現するため』なのだとすれば、文化の灯を絶やさぬよう社会とともに生き、そして事態の収束後に明るい未来が描けるよう活動していきたい。残念ながら4月18日より開催予定だった展覧会は延期することにした。今後は日毎に変わる状況や国、自治体からの要請を見極めながら対応していきたい」。

顧客マインドの変化に不安はあるが、未来への手応えや光も

 いっぽう、東京・外苑前のMAHO KUBOTA GALLERY代表・久保田真帆は現状について以下のようにコメントする。「ファッションや飲食など日々の売り上げを重ねていくビジネスと違い、アートはまったく何も売れない日があったり、集中して販売があったりとセールスの動きを短期間で比較することは難しい業種。新型コロナの影響による大きな変化は、今後じわじわと発生してくるのではないかと思う」。

 しかし、こうした状況でも、今後につながる動きはあるという。「アートバーゼル香港に出展予定だった武田鉄平の作品8点は、2点のみをアートバーゼルのオンラインビューイングでの紹介などで販売、6点は発表を控え、展示の機会を失ったことは明らかなマイナスであった。だが、これをとくに大きな損失とはとらえていない。アートバーゼルのInstagramで武田鉄平の作品を紹介した際には大きな反響もあり、未来へのよい手応えを感じている。さらに、3月17日より開催したグループ展「TOKYO 2X2X」は、途中で開催中止となったものの、予想以上に多くの来客があり、作品販売も順調だった。具体的にはAKI INOMATA、安井鷹之介、Taylor Kibbyの作品が好評だ。このような時期にサポートしてくれるアートファンのお客様が存在することには大変感謝している」。

MAHO KUBOTA GALLERY

 だが、今後のアートフェアや展覧会の開催についての課題は多い。「5月以降の展覧会の予定が立てられないのは大きな問題だ。アーティストのためにも、なるべくよい条件の中で個展を開催したいと思っているが、その時期の見極めが難しい。また、今秋には海外アーティストの個展を予定していたが、この状況で実現できるかどうか、現段階ではわからない。毎年秋に参加してきた海外アートフェアの参加についても、時期尚早ではないかという気がしている。作品の海外輸送にも以前にはなかったリスクを感じており、輸送の途中で流通が止まってしまうといった、平常時にはないトラブルの危険性もあるため、輸送を保留している案件もある」。

  そして久保田は、何よりも大きな不安として、人々のマインドの変化を挙げる。「新型コロナウイルスが収束したとして、その後のアートマーケットをめぐるマインドがどうなっているかまったく予測ができない。どういうかたちで回復できるのか、回復にどれくらい時間がかかるのかがわからないだけでなく、人々のマインドセットも随分変わってくるのではないかと思っている」。

 こうした状況のなかでも、久保田が光を感じているのがオンラインのアートのビジネスプラットフォームだ。「『The Chain Museum』および『ArtSticker』などのプラットフォームには、積極的に関わっていきたいと考えている。既存のアートビジネスのあり方と比較しても、長い目で見ればよりサステイナブルで夢のある展開になっていくのではないか。また、アートの共同保有をサービスとして打ち出す『AndART』など、既存のアート界にはなかったIT分野からの参入にも刺激を受けている。プライマリーギャラリーとして密接に関わっていくことについては難しい面もあるが、情報交換や新しいアイディアの共有など、いっしょにできることは多いかもしれない」。

 先行きが不透明なアート・マーケット。こうした状況においても、ギャラリーはウェブの活用や新規プラットフォームとの関わりを中心に新たなアクションを探り、機会創出を狙う。