8割以上が経済損失
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、深刻な影響を受けている芸術文化活動。その実態を明らかにする調査結果が発表された。
今回調査を実施したのは、コンサルティングファームのケイスリー株式会社。芸術文化活動にかかわる個人・組織を対象に、2020年4月3日~4月10日の期間にネットで行われ、3357件の回答があった。
回答者の属性で半数以上を占めたのは、「所属組織なし(個人・フリーランス)」の66パーセント(分野の内訳は音楽:52パーセント、演劇:11パーセント、美術・映像:7パーセント)で、職業ではアーティストが71パーセントと最多。次いで裏方に当たる制作者・制作側が34パーセントとなった。
調査では、現在困っていることや現状の支援、損失など11項目を質問。「今困っていること・心配なこと」としては、「活動ができないこと」が84パーセント、次いで「事業・個人の収入の低下」が82パーセントと大きなウェイトを占めている。
経済状況については、回答者の8割以上が数十万円~1億円以上の幅で損失を受けており、半数以上が数十万円の補償を望んでいる。しかしながら、「現状、行政からの支援は十分だと思いますか」という問いに対しては、「そう思わない」(86パーセント)「あまりそう思わない」(10パーセント)と、およそ9割が行政からの金銭的支援について十分ではないとしており、現実と政策の乖離があらためて浮き彫りになったかたちだ。
自由記述のコメントでは、「3ヶ月先の仕事もなくなり生活が困窮しています。すぐ援助を」や、「(業界の体質もあり)明確な書類が出せない状況のフリーランスに対しての救済措置が必要」「シングルマザーのフリーランスの舞台技術者です。3ヶ月先の仕事もなくなり生活が困窮しています。すぐ援助をしてもらわないと、生活が立ち行かなくなります。企業より何より、個人の生活を守ってください」といった声が寄せられている。コメントのテキスト分析においても「支援」という単語の利用頻度が圧倒的に高い結果となっており、芸術文化分野における支援を求める声は大きい。
現場の声は
この調査結果を踏まえ、4月15日に行われたオンライン記者会見では、芸術文化活動の従事者が登壇した。
DJなどのインディペンデント・アーティストが所属するプロダクションDIRTY30の代表を務めるNaz Chrisは、「90パーセントのアーティストは公演本数がゼロとなり、回復期までは待てない」と現状の危機感を訴える。
吉祥寺で芸術複合施設「Art Center Ongoing」を運営する小川希は、「緊急事態宣言発令以降スペースを閉めているので収入がなく、このままでは確実に潰れる。インディペンデントでは成り立たなくなっている」と切実な状況を明らかにし、アーティストの遠藤麻衣も「どうしたら活動をやめずにいられるか。そのための支援が必要」だと語る。
いっぽう、振付家でダンサーの梅⽥宏明は「劇場が使えず収入がない。ダンスは準備してきたものがかたちとして残るわけではないので、二次活用もできない。生活を支えるダンスレッスンもできず大きな問題」と、パフォーミング・アーツにおける厳しい現実を訴えた。
政府は中小企業・個人事業主を対象とした「持続化給付金」と、世帯を対象とした「生活支援臨時給付金」を発表しているが、これらについても小川は「全額給付されるならば十分かもしれないが、提示されているものが全額もらえるのか。減額されるのではないか」という懸念を示す。また梅田は「舞台芸術は仕事のスパンが長いので、額だけでは判断が難しい。持続的な支援策があれば」とする。
表現の場を守り通さねばならない
こうした調査結果について、早稲田大学文学学術院教授で日本文化政策学会理事⻑の藤井慎太郎は、「財政基盤が脆弱な零細事業者やフリーランス労働者が文化セクターを支えているという各国に共通する傾向が、本調査によっても示された。国による給付金は肝心の層に届かず、東京都の感染拡大防止協力金も事態が⻑期化すればすぐに不充分となる可能性が高い。個人事業主として届け出ていないフリーランスも対象に含めて、さらにきめ細かい支援策が求められる」とコメント。
またA.T. カーニー日本法人会⻑でナイトタイムエコノミー推進協議会の梅澤高明は、「回答がもっとも多かった音楽分野を例にとると、アーティストやフリーランスの制作スタッフは仕事の場と収入を完全に失い、賃料・人件費など固定費負担の大きいライブハウス・クラブの多くも存続の危機に瀕している」と指摘。「自粛を求められる期間がまだ暫く続くことを考えると、各種債権の支払猶予と無利子・無担保融資に加えて、『持続化給付金』の迅速な支給、さらなる支援の上乗せが文化生態系の存続に不可欠と言える」としている。
またコロナ収束後を見据え、次のように言及した。「アフター・コロナの基軸は文化産業や、文化を軸とする観光産業になる。ローカルでオーセンティックなものが求められるなか、アーティストの表現の場を守り通さねば、仮に東京五輪が2021年に延期されたとしても何を見せるのか、という危機感を持っている」。