1月7日発売の 『美術手帖』2020年2月号は、「アニメーションの創造力」を特集する。
動画配信サービスによる視聴環境の多様化や、他業界とのメディアミックス、グッズやゲームなどライツ事業の展開などを背景に、アニメーション表現にはどんな変化が起きたのか。本特集では商業アニメからインディペンデント作品まで、国内外で活躍するつくり手たちへの数多くのインタビューをとおして、2010年代のアニメーション史の見取り図を描こうとするものである。
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巻頭を飾るのは、現在公開中の映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の片渕須直監督。新作に込めた思いやアニメーション観について話を聞く。
そして『けものフレンズ』や『ケムリクサ』など人気作品を手がけるたつき監督、『失くした体』がNetflixで配信中のジェレミー・クラパン、アカデミー賞に作品がノミネートされたドン・ハーツフェルトら世界の監督にもインタビューし、国内外両方の視点から世界のアニメーションの流れを紹介する。
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さらに特集の監修を務める土居伸彰、高瀬康司の両氏が加わる座談会「2010年代、日本アニメから眺める世界のアニメーション」は、高畑勲、新海誠、湯浅政明らによる長編映画作品から商業アニメ、海外作家まで、この10年を代表する作品を多数取り上げながら、総括的に振り返ろうとするもの。個々の作品を分析しながら、インディペンデント性、集団制作における作家性の獲得、ゲーム的世界の影響といった10年代のアニメーションの特徴を浮き彫りにし、2020年代の展望をも示唆している。
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Part2では、制作現場に視点を移し、おもに商業アニメにおける3DCGなど新たな技術を取り入れながら、いかに新しい表現を生み出しているかを明らかにする。『電脳コイル』で知られる磯光雄と山下清悟の対談では、技術的な探究の重要性と、これからのアニメ界の展望が語られる。
そして、昨年話題となった『Fate/Grand Order』配信4周年記念映像の監督らにも取材。3DCGと2D作画を組み合わせた最新のアニメ映像がどのようにして生み出されたのか、そのプロセスを徹底解析する。
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Part3では、インディペンデントで活躍する注目の作家たちに焦点を当てる。『ポプテピピック』内のコーナー「ボブネミミッミ」を手がけて話題を集めたAC部や、多摩美のグラフィックデザイン学科の卒業制作が高く評価され、活躍の場を広げている久野遥子のほか、冠木佐和子、岩井澤健治、ミヒャエル・フライ、ギンツ・ジルバロディスにインタビュー。10年代の制作環境の変化を背景に、表現の拡張と越境試みる彼らの実践に迫る。
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さらに、アニメ界の外側からの視点として、アニメーション映画『花とアリス殺人事件』を手がけた岩井俊二監督や、アニメのキャラクターをモチーフとする現代美術家の梅沢和木らにも話を聞いた。
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加えて、女性視聴者をターゲットとした『おそ松さん』と『プリキュア』の両プロデューサーらが語る、商業アニメをとりまく産業構造やマーケティング戦略についての記事も。つくり手、受け手両方の視点から、多角的にアニメーションの可能性をとらえようとする、保存版として貴重な1冊と言える。
第2特集では、「サイボーグ宣言」で知られるダナ・ハラウェイを紹介。フェミニズムや人新世などとも接続するハラウェイの思想とはどのようなものなのか、その理論に影響を受けるアーティストたちの言葉やキーワードから、いまあらためて確認する。