文化庁が「あいちトリエンナーレ2019(以下、あいトリ)」(8月1日〜10月14日)への補助金全額約7800万円を不交付とした問題に関し、15日の参議院予算委員会で質疑が行われた。
文化庁の不交付決定については、「表現の不自由展・その後」展示再開の方向性が決定した9月25日の翌日26日に、萩生田文部科学大臣が発表。「文化庁に申請のあった内容通りの展示会が実現できていない。継続できていない部分もある。補助金適正化法等を根拠に交付を見送った」としていた。
あいトリに交付される予定だった補助金は、「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業」。あいトリはこの事業で採択された全26件のうちの1件だった。
開幕2日目の8月2日、菅官房長官は不自由展を受け、記者会見で「審査時点では具体的な展示内容についての記載はなかった。適切に対応していきたい」と発言。この発言時点で、菅官房長官は不自由展内での《平和の少女像》以外のあいトリ展示作品については把握していなかったことを、立憲民主党・福山哲郎議員の質問への回答で明かした。
また質疑で文化庁側からは、採択が決定した案件を不交付に覆した例はないこと、不交付審査にあたっては採択に携わった審査員への確認をすることなく、現地調査も行わないまま決定に至ったことが説明された。決済については文化庁長官ではなく、文化庁審議官が専決処分として行ったという。
このような文化庁の判断について、福山議員は次のように批判した。
非常に不透明な意思決定手続き。結論ありきだったと取られても仕方ない。「表現の自由」に政府が干渉して補助金を恣意的に不交付にしたと言われても仕方ない状況。すでに採択された補助事業が不交付になるのだったら、事業の開催を守るため政府の方針に少しでも反するような表現はあらかじめ自己検閲する力が働く。今回のこの不透明な決定は「表現の自由」に大きな萎縮効果を生みます。事実上の検閲として働く。
今回の質疑では、宮田亮平文化庁長官が不交付決定以降初めて公の場で発言。福山議員の「長官として不交付の撤回はもう一度再検討するべきだと、お話しいただけませんか?」という質問について、以下のように答弁した。
「表現の自由」は極めて重要であります。今後とも大変大切であると思っております。他方、今回の決定は申請者の手続き上の問題です。もし誤解が生じるようでありましたら、理解が得られるよう努力して参りたいというふうに考えております。
「表現の不自由展・その後」については10月8日に展示が再開され、あいちトリエンナーレ2019はすべての展示を開幕当初の状態に戻し、閉幕を迎えた。福山議員はこの展示再開と会期満了を理由に、補助金不交付の理由とされた「実現可能性と事業の継続性」に「問題はなくなった」と指摘。しかしながら宮田長官は次のように不交付見直しについて否定した。
今回の補助金の不交付の理由は、企画展の中止や再開に関わらず、補助金申請者の展覧会の開催にあたり、来場者を含め、展示会場の安全や事業の円滑な運営を驚かす(編集部注:脅かすの意か)ような重大な事実について、認識していました。それらの事実について、文化庁にまったく申請しなかったことによります。それによって不交付決定を見直す必要はないと考えました。
不交付決定については、宮田長官が学長を務めていた東京藝術大学の教員有志をはじめ、美術評論家連盟、日本現代美術商協会など多くの組織から撤回を求める声明が出ている。
あいちトリエンナーレ2019と補助金不交付決定をめぐるタイムライン
7月31日 宮田亮平文化庁長官が「第一報」を受ける(予算委で証言)
8月3日 菅官房長官「適切に対応していきたい」と発言
8月3日 「表現の不自由展・その後」展示中止
8月18日 あいちトリエンナーレのあり方検証委員会「中間報告」について文化庁が進捗確認
9月19日 あいちトリエンナーレのあり方検証委員会「中間報告」について文化庁が進捗確認
9月20日 「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業」26件のうち「あいちトリエンナーレ2019を除く」25件を交付決定
9月24日 不交付決定を起案
9月25日 あいちトリエンナーレのあり方検証委員会「中間報告」を発表
9月26日 不交付決定
※一部記事を訂正しました