小杉武久は1938年東京生まれの音楽家。1957年東京芸術大学音楽学部楽理科に入学し、在学中から現在に至るまで、作曲家・演奏家として約60年に渡って活動している。その活動は一貫して、ヨーロッパの伝統音楽の継承ではなく、既成の「音楽」という概念を拡張しようとするものだった。
「グループ・音楽」や「タージ・マハル旅行団」といった集団即興演奏グループの結成、「マース・カニングハム舞踊団」への参加といった活動のほか、個人としても世界各地でのフェスティバルへの参加やコンサートを開催するとともに、サウンド・インスタレーションの発表なども行っており、近年では、「あいちトリエンナーレ 2016」に参加した。
本展は、小杉の約60年に渡る活動を俯瞰的にとらえようというもの。第1章から第4章では、その活動を「グループ・音楽から反音楽へ(1957〜1965)」、「フルクサスからインターメディアへ(1965〜1969)」、「タージ・マハル旅行団(1969〜1976)」、「マース・カニングハム舞踊団(1976〜)」といった4つの時期に分け、記録写真、チラシ、ポスター、プログラムなどのアーカイブ資料を展示。そして続く第5章「サウンド・インスタレーション(1963〜)」では小杉が発表してきたオーディオ・ビジュアル作品を展示する。
第5章で展示されるのは、鑑賞者の存在が作品に影響を与えるサウンド・インスタレーションとなっている。人間の耳には聞こえない高周波の音の発信機とラジオ受信機を天井から吊るし、周囲の扇風機の風や鑑賞者の起こす空気の流れによって、発信機と受信機の位置関係が変化し、可聴波が不確定的に生まれる《マノ・ダルマ,エレクトロニック》。そして、ソーラーパネルを電源とする電子音を発生させるオブジェを並べ、鑑賞者が作品に近づくと光を遮り電子音が変化する《ライト・ミュージックⅡ》。これらの作品は鑑賞者自身が演奏家となって参加する作品であり、いわば「音楽のピクニック」としての楽しみを与えるものとなっている。