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あいちトリエンナーレ2016開幕レポート!【岡崎・豊橋編】

今年で3回目を迎える「あいちトリエンナーレ2016」がついに開幕。今年はテーマに「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」を掲げ、38の国と地域から119組のアーティストが参加。名古屋、豊橋、岡崎の街なかに作品が展開されている。注目の作品を名古屋編と岡崎・豊橋編の2回に分けてレポートする。

ラウラ・リマ フーガ 2016

会場の固有性に注目! 岡崎・豊橋会場

前回の「あいちトリエンナーレ2013」でも会場だった岡崎に加え、今回は豊橋が本会場のひとつに加わった。城下町として栄え、今もその気配が色濃く残る岡崎では、1977年に開店したショッピングセンター「岡崎シビコ」を中心に、154年の歴史を持つ「石原邸」などに作品が展示。また豊橋では、1960年代に農業用水路を塞ぐように建てられた長さ800mに及ぶ「水上ビル」や、1972年に開業した「開発ビル」など、土地の記憶を今に伝える場所が会場として使用されており、作品と場所の交わりに注目したい。

二藤建人(名鉄東岡崎駅ビル)

名鉄東岡崎駅ビルでの二藤建人《空に触れる》の展示風景。素材として使用された土は愛知県内で採取されたもの
名鉄東岡崎駅ビルでの二藤建人《手を合わせる》の展示風景。用意された湯と水を使って左右の手の温度に差を生じさせたうえで手を合わせることで、両手の感覚が一体化するのを感じてほしいという

1986年生まれの彫刻家・二藤建人は、昭和の雰囲気が残る名鉄東岡崎駅ビル内のスペースに、映像や立体作品を展開。 国境上に立ったり、半身だけ日焼けをしたりすることで身体を左右に「分ける」プロジェクトや、他者の重さを受け取る体験ができる装置、谷底を「空の頂上」ととらえた《空に触れる》などの作品群は、身体感覚に加え、分断・重量・反転といった造形の概念を拡張させていく。

シュレヤス・カルレ《帰ってきた、帰ってきた:横のドアから入って》(岡崎表屋)

岡崎表屋でのシュレヤス・カルレ《帰ってきた、帰ってきた:横のドアから入って》の展示風景。作品とファウンドオブジェクトが混在する不思議な空間が広がる
会場となった「岡崎表屋」は、いまもオフィスとして使われるモダン建築

戦後間もなく建てられた岡崎表屋では、インド人アーティストのシュレヤス・カルレが建物の2・3階部分を使ったインスタレーションを見せている。インドで制作したオブジェとともに、もともと人が住んでいた表屋にあった家具や雑貨(椅子や食器、テレビなど)を使用し、手を加えて展示することで、作品でないものが作品になる過程を提示する。「どこからが作品なのか」を問うようなモノが集まった「アンチ・ミュージアム」を目指したという。時の経過を感じさせるモダニズム建築の構造や、ディテールも楽しめる。

コラムプロジェクト「トランスディメンション─イメージの未来形」(岡崎シビコ)

岡崎シビコでの展示風景。手前は横田大輔の《Matter/Vomit》

岡崎シビコでは小企画、「コラムプロジェクト」として写真をテーマにした「トランスディメンションーイメージの未来形」が大空間を活かして行われている。会場にはポスト・インターネット時代における写真の3D化に焦点を当て、赤石隆明、勝又公仁彦、小山泰介+名和晃平、横田大輔、ルーカス・ブラロックの5組が巨大インスタレーションを中心に作品を展開。既存の写真表現とは異なるアプローチを体感することができる。また、同じフロアには野村在やハッサン・ハーンの作品も。

ラウラ・リマ《フーガ》(豊橋・水上ビル)

水上ビルでのラウラ・リマ《フーガ》展示風景。1階から屋上まで、様々なオブジェクトを使用して鳥たちのための住居がつくられている

リオ・デ・ジャネイロを拠点に、90年代半ばから、自ら「イメージ」と呼ぶ一連の作品を生み出してきたラウラ・リマ。今回は水上ビルの1軒分を100羽の鳥のための棲家に変容させた。台所やトイレ、押入れなど建物の至るところに鳥が羽を休めるための装置が設置してあり、鳥は建物内を自由に行き交うことができる。鑑賞者は本来自分たち人間が住むはずの場所に、異質な存在として入っていくことになる。

リビジウンガ・カルドーゾ《日蝕現象 Achado arqueológico, achado não é roubado》(豊橋・はざまビル大場)

はざまビル大場でのリビジウンガ・カルドーゾ《日蝕現象 Achado arqueológico, achado não é roubado》の展示風景。社会科学と視覚芸術を学んだ作家は、作品制作、ワークショップなど、多様なアプローチで活動を展開している

アマゾン川周辺地域でDJブースのように使われるという「音の船」、ナーヴェを展示しているのは、ブラジル生まれのリビジウンガ・カルドーゾ(別名:レアンドロ・ネレフ)。現地にはナーヴェのデザイナーも存在し、様々な形態のものがつくられているという。今回作家が行ったプロジェクトは、自国の文化であるナーヴェを、地球の反対側に位置する日本まで「旅」をさせること。最終的には物々交換によって訪れた人に譲り渡す計画で、現在交換相手を募集中だ。会期中は、設置された装置でサウンドを自由に操作したり、ナーヴェに乗って写真を撮ったりして楽しむことができる。

石田尚志《絵馬・絵巻》(豊橋・開発ビル)

開発ビル10階での石田尚志《絵馬・絵巻》の展示風景。リハーサル室の空間を用いたインスタレーションの様子
開発ビル10階での石田尚志《絵馬・絵巻》の展示風景。劇場内の空間をいっぱいに使い、ライトボックスを用いた作品をインストール

身体の軌跡として生み出される線を用いて映像や絵画を制作する石田尚志は、開発ビル内の旧劇場施設を使った新作を発表している。抽象アニメーションを制作する背景には「音楽を視覚化する欲望」があると語る石田は、舞台空間だけでなく楽屋やリハーサル室として使われていた部屋にも、それぞれ映像作品を展開。楽屋では演奏会前の高揚を表現するなど、空間の持つ記憶に寄り添い、音楽会に至るまでのストーリーを作品化しているという。

開発ビル6階での小林耕平《東・海・道・中・膝・栗・毛》展示風景。「東海道中膝栗毛」の物語を再解釈し、自ら出演する映像インスタレーションとして構成した

そのほか豊橋会場では、小林耕平、佐々木愛、久門剛史、ハーバード大学感覚民族誌学ラボなどが作品を発表。古くから交通の要所であったこの土地の歴史や環境に着目して制作された作品も多く、特徴的な展示空間とのコラボレーションに注目だ。

芸術監督・港千尋によるテーマ「虹のキャラヴァンサライ」のもと、アートの枠組みにとらわれない様々な視点で創造された作品が揃う、今年のあいちトリエンナーレ。国際展に加え、パフォーミングアーツや映像プログラムも充実している。ぜひすべての会場を楽しんでほしい。

編集部

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