森美術館で「ロン・ミュエク」展が来春開催。巨大な頭蓋骨の彫刻100点によるインスタレーションも【2/3ページ】

 日本初展示となる作品をいくつか紹介したい。例えば、先述の《マス》は、100点の頭蓋骨が山のように積み上げられた、サイトスペシフィックなインスタレーション作品である。頭蓋骨という主題は、「メメント・モリ(死を忘れるな)」というラテン語起源の思想とともに、西洋美術史のなかで繰り返し扱われてきたいっぽう、現代のカルチャーシーンにおいても普遍的に用いられている。

 本作に登場する頭蓋骨は、それぞれ色合いや形状が異なり、個々人の集合体であることを示唆している。しかし同時に、それらが放つ圧倒的な存在感は、“集団”としての迫力を鑑賞者に突きつける。

マス 2016-17 ビクトリア国立美術館(メルボルン) フェルトン遺贈(2018) 「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館 2025
撮影=ナム・キヨン 写真提供=カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館 

 《買い物中の女》は、現代を生きるひとりの母親を表した彫刻作品だ。重たい荷物や赤ん坊を抱えるその姿と、疲れ果てた表情からは、彼女の日常がありありと伝わってくる。実物よりも小さくつくられたその造形は、母親の疲労感や脆さをいっそう際立たせており、大都市のありふれた日常に潜む切なさを表現している。西洋美術史で定番とされる「聖母子像」を、現代的に解釈した作品とも言えるだろう。

買い物中の女 2013 タデウス・ロパック(ロンドン・パリ・ザルツブルク・ミラノ・ソウル 「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館  2025
撮影=ナム・キヨン 写真提供=カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館 

 背中に大きな翼を持つ男性が椅子に腰掛ける《エンジェル》は、ミュエクによる初期の代表作である。ミュエクは、18世紀イタリアの画家ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロによる《ヴィーナスと時間の寓意》(1754〜58頃)を目にしたことをきっかけに、本作の制作に取り組んだという。原作でヴィーナスの隣に描かれた「時間」を象徴するこの年老いた男性は、私たちが一般に抱く天使のイメージとは大きくかけ離れている。

エンジェル 1997 個人蔵
写真提供=アンソニー・ドフェイ(ロンドン)

編集部