12月19日、紀尾井ホールで渋谷慶一郎のピアノソロコンサートが2年ぶりに開催される。
渋谷は2002年に音楽レーベルATAKを設立。先鋭的な電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたり、東京・パリを拠点に活動している。2012年に初音ミク主演による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』を発表。22年3月にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、UAE現地のオーケストラのコラボレーションによるアンドロイド・オペラ『MIRROR』を発表し、23年6月にはパリ・シャトレ座にて70分の完全版となる同作を初演。また今年6月には同作を恵比寿ガーデンホールにて東京凱旋公演した。
「Keiichiro Shibuya Playing PianoーLiving Room」と題したこのコンサートは、ゲストに気鋭のヴァイオリニスト・石上真由子を、そしてステージデザインには建築家・妹島和世を迎えるもの。ステージにはアンプラグドなピアノとヴァイオリン、妹島和世がこれまでに製作した家具や自身が所有するミースやル・コルビュジエの家具などが配置されるという。また会場全体はLa Nuit parfum、和泉侃による香りが微かに充満する。
演奏されるのは渋谷慶一郎自身の楽曲に加えて、サティ、ペルト、高橋悠治の作品など。渋谷はこの公演について、以下のようなコメントを寄せている。
「従来の劇場音楽における会場一体となった古典的な緊張感のあり方をステージから揺さぶることは出来ないだろうか?ということはずっと考えていて、その実践と実験が今回のコンサートになる。『Living Room』と題されたこのコンサートはステージに建築家・妹島和世さんがこれまでに製作された複数の家具と彼女の所有するミースやコルビュジエの家具などが混在して配置され、それらは演奏の合間に使用されたりもする。一人が弾いているときに別の一人はソファで休んだり、演奏の準備をしたり、その演奏を聴いたり、という風に。妹島さんとは今までにもいくつかのプロジェクトでご一緒させてもらっていて、今も進行中のプロジェクトがあるのだが、その造形的思考は音楽家の僕には常に完全に予想外の連続であり、『ステージに音楽家のための架空のリビングルームを作る』アイディアを思いついた時にすぐに相談させて頂いた。 そうすることで、今回のようにピアニストとヴァイオリニストが二人で演奏するコーナーとソロのコーナーを分けたり、その際にステージを出たり入ったりする仰々しさをなくし、その代わりにステージにある家具で休んだり弾いたりすることによって、ある種シアトリカルな緊張と弛緩を聴衆は観て聴くことになる。こうしてステージは従来のコンサートのように単線的でリニアな時間ではなく、サティが言うところの『生活』のような複層的かつ私的な時間と、従来の演奏会の持つ極度に緊張度の高い空間が重なればと思う」(プレスリリースより抜粋)