昨年、パリ・シャトレ座で上演された渋谷慶一郎の作曲・プロデュースによるアンドロイド・オペラ『MIRROR』が、東京・恵比寿ガーデンホールで凱旋公演される。6月18日1日限りの公演だ。
同作は、アンドロイドとオーケストラ、1200年の歴史を持つ仏教音楽・声明と渋谷自身の演奏によるピアノ、電子音楽、そして映像、照明によって構成される大規模劇場作品。2022年にドバイ万博にて発表され、翌年には70分の作品として再制作された。パリでの初演を経て、今回が待望の日本初演となる。
今回の東京公演は2部構成。第1部では、21年に新国立劇場の委嘱により初演された、子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ 『Super Angels』の抜粋が前半の第一部として披露される。同作は、視覚や聴覚に障害を抱えるなど多様な子供たちからなる「ホワイトハンドコーラスNIPPON」が児童合唱として参加。渋谷によるピアノとオーケストラの演奏に加えて、アンドロイド、アーティスト・岸裕真によるAIを用いた映像、そしてHATRAによる子供たちの衣装がコラボレーションする。
第二部『MIRROR』のステージではアンドロイド「オルタ4」がヴォーカルを務め、高野山から4 名の僧侶であり声明の演奏家が参加。本公演では若手僧侶の谷朋信が初めてリードを務める。また映像は、フランス人ビジュアルアーティストJustine Emardが映像のライブミックスのために来日。東京公演のために集まる40名のオーケストラはコンサートマスターにクラシックから現代音楽まで幅広く活躍するヴァイオリニスト成田達輝を迎える。
渋谷はこの凱旋公演について、以下のようなコメントを寄せている。
6年前、未来館で初めてこのプロジェクトがスタートした時のことは忘れない。本番直前までアンドロイドとオーケストラの調整、リハーサルがうまくいかず、「今回は一生で初めての黒歴史になるかもしれない」と覚悟しながらステージに向かったのだった。結局、本番は奇跡的にうまくいき公演は大きな驚きをもって迎えられ、そのあと僕とアンドロイド・オペラは世界中で公演することになり、公演のたびにバージョンアップを繰り返し、必然的に僕のメインプロジェクトとなっていった。
同時に初期の頃の僕には「この作品、コンセプトは新しいのだろうか?もしかして古いのか?」という漠然とした疑問と不安の中間のようなものがあった。
それは、この作品を構想した2014年当時、「近い将来、アンドロイドにAI は統合され人間と機械の中間のシミュレーターとして機能、普及するだろう」という想像が現実になるまでに結構時間がかかったことも関係している。が、しかし近年、人型ロボットを開発するFigure AIにNVIDIAやジェフ・ベソスが出資し、Open AIやビル・ゲイツが連携を表明するなど、AI側からのアンドロイドへの接近が具現化するという僕の当時の妄想というか希望は具体化してきている。それと前後してアンドロイド・オペラ、僕とアンドロイドの共演のオファーは急激に増えていった。昨年はPRADA MODEで演奏、その他にもGUCCI、NIKE、BMW等とコラボレーションして中東からヨーロッパまでオペラ公演で横断しているアンドロイドなど僕はオルタ4以外に知らない。
この公演はそうしたここ数年のプロセス、旅の結節点になると思う。日本で初演して戻ってくるのに6年もかかった。たった一晩の公演にその全てを詰めるので受け取って欲しい。(プレスリリースより)