平和の尊さを国内外に呼びかけるポスターを制作し、広く発信するJAGDAの「ヒロシマ・アピールズ」キャンペーン。その2024年版として、デザイナー・副田高行によるポスター「遺品が訴えるもの」が完成した。
副田は1950年福岡県生まれ。東京都立工芸高校デザイン科卒。スタンダード通信社、サン・アド、仲畑広告制作所を経て、95年副田デザイン制作所設立。
このポスターは、写真家・石内都の写真集『ひろしま』の作品を使用したもので、7月12日に副田より松井一實 広島市長へ贈呈。それに伴い、東京と広島ではポスターの販売も開始された。現在、東京ミッドタウン・デザインハブで開催中の「日本のグラフィックデザイン2024」展(〜8月25日)で展示されているほか、広島市内のバス停23ヶ所(7月29日~8月11日)や、旧日本銀行広島支店で開催される「ヒロシマ平和ポスター展 2024」(8月25日〜30日)でも紹介される予定となっている。
副田は本ポスターの制作に当たって次のようにコメントを寄せている。
戦後五年たって生まれた私には、とうぜん戦争の実感はとぼしい。戦後の空気はのこっていたが、毎年くりかえされる報道で、戦争のむごさや平和のたいせつさを感じていた。世界では、いまだに戦争がつづいている。人類は、いつまであやまちをくりかえすのだろうか。
「ヒロシマ・アピールズ」の指名があり、どうしたものかとしばらくは呆然としていた。ポスター一枚で、原爆のおそろしさ、平和、戦争反対をとなえることは、とてもたいへんな作業だとおもう。そんなこと自分にできるのか。私はふだん広告制作を生業としている。だから、デザイナーが頭のなかで描くイメージではなく、もっとリアリティのある表現はできないかと考えた。
当時の資料をしらべていくなかで、『ひろしま』という石内都さんの写真集にいきあたった。それは、出版社から依頼され、広島平和記念資料館・遺族同意のうえで撮影されたものだった。なかでも私の目をひいたのは、被爆者がその日身につけていた衣服だった。それはもちろんちぎれ、やぶれている。石内さんの解説によると、おおきなライトボックスの上において撮ったそうだ。その逆光の効果もあってか、不謹慎かもしれないが、悲惨さと同時にうつくしいとおもった。生なましさは消えて、おそろしいその瞬間をみごとに、象徴的に写しとっていると感じた。これなら、原爆のおそろしさを直截ではなく、シンボリックにつたえられるとおもった。この遺品は訴える。「あのできごとを、忘れるな」ということを。
石内さんの了解をえて、そのなかの一枚でポスターをつくった。現在でも遺族がたいせつに保管していた遺品が、毎年寄贈されるという。石内さんは、その後も毎年広島にいって撮影を行なっているそうだ。
(Photograph: Ishiuchi Miyako『ひろしま』hiroshima #71 Donor: Hatamura, T.)