ロームシアター京都が2017年度から取り組む、劇場レパートリー作品をプロデュースする「レパートリーの創造」。専門家や観客の育成を盛り込み劇場文化を盛り上げることを目的とした同シリーズ第7作目として、ダムタイプのコアメンバーとして知られるメディアアーティスト・高谷史郎の新作パフォーマンス 『Tangent ( タンジェント) 』が製作・上演される。
高谷史郎は1984年から「ダムタイプ」の活動に参加し、様々なメディアを用いたパフォーマンスやインスタレーション作品の制作に携わり、世界各地の劇場や美術館で公演/展示を行ってきた。また98年からはダムタイプと並行して個人の制作活動を開始し、中谷芙二子、坂本龍一、野村萬斎、十五代樂吉左衞門・樂直入らとのコラボレーション作品も多数手がけてきた。今年春には、21年にオランダ・フェスティバルで世界初演した坂本龍一+高谷史郎『TIME』を、東京の新国立劇場とロームシアター京都で上演することも決まっている。
高谷はこれまで写真を介した実在する対象にまつわる記憶、光と色彩、人の認識を超えた「時間」と「空間」についての考察など、一貫してアートとテクノロジーの狭間で、物理的な力学や人間の感覚の臨界を探る試みを続けてきた。
高谷個人名義でのパフォーミングアーツ作品としては4作目、『ST/LL』(2015年初演) 以来8年ぶりの新作となる今回の『Tangent ( タンジェント) 』。2021年度から製作が始まった本作は、初等幾何学における「接線」=「tangent」をキーコンセプトに、物質や空間、音や光、色彩がそれとして知覚されるうえでの境界の在り方に着目したもの。太陽などの自然物をモチーフに、マクロ/ ミクロのスケールを行き来しながら身体感覚と世界は互いにどのように感知・共有されるのかという問いに向き合うというものだ。
高谷は公演前の1月に行われた取材会で本作について、「Tangentには数学的な意味もあるが、もっと感覚的な、『接する』イメージが強い」と語る。朝日が昇るときや夕日が沈むとき(それらも『接すること』に通じる)に感じるような大きな自然に興味があるという高谷。舞台上では移ろいゆく人工の太陽を設置し、世界の時間のとらえかたを再認識させることも試みるという。「自分たちは大きなものの中にいる小さな存在。億年単位という長いスパンのなかで人間という存在をとらえられたら」。
本作ではその創作スタイルにも注目したい。ダムタイプの作品と同じく、参加アーティストたちが各自のアイデアを出し合いながら1つの作品にまとめ上げていくというプロセスが採られた。プロジェクトメンバーは、アーティスト/プログラマーの古舘健、サウンド・アーティストの濱哲史、照明デザイナー吉本有輝子に加え、金属造形等の技術を用いた作品を手がける美術家・白石晃一、マルチチャンネル音響を用いたサウンド・インスタレーションで注目されるサウンドアーティスト・細井美裕が参加する。
舞台上には細井がパフォーマーとして登場し、声を含む様々な「音」を発生させる。また音楽には高谷と親交があった坂本龍一の音源を使用し、それらがときに混ざり合いながら、「音」のとらえかたも問いかけるという。
高谷は坂本に本作のための楽曲を依頼したいと考えていた。オリジナル楽曲の提供は叶わなかったが、「音楽を頼むときに坂本さん以外考えられない」という高谷たっての希望のもと、KAB America Inc.やKab Inc.の特別な協力を得て坂本生前最後のオリジナルアルバム『12』の音源などが使用されることとなった。「舞台全体をじっと見る、じっと聴くことの重要性は坂本さんから影響を受けている」と語る高谷。本作には坂本との共作である『TIME』に盛り込めなかった部分も含まれているという。
なお、関連情報として高谷のロングインタビューがロームシアター京都のウェブサイトに掲載されている。公演前に読んでおきたいテキストだ。