青森にある弘前れんが倉庫美術館で⼤規模個展「雪⽉花のとき」(〜2024年3⽉17⽇)を開催しているアーティスト・松⼭智⼀。その同名の個展が中国・上海に位置するPowerlong Museum (宝龍美術館)でも開催されている。会期は2024年2月18日まで。
本展は、2020年から21年にかけて上海の龍美術館西岸館(ロン・ミュージアム・ウエストバンド)で開催された「Accountable Nature」展に続き、松⼭にとって中国本土での2回目となる大規模個展であり、松山の近年の代表作や最新の大作など36点の作品が展示。キュレーションを手がけたのは、森美術館の特別顧問でアーツ前橋の特別館長である南條史生だ。
展覧会は、展示総面積約1500平方メートルにおよぶPowerlong MuseumのHall 1と6を使用。らせん状の構造を持つHall 1には、無常観や死生観を立体的に表現した彫刻作品《Glory Slowly》《Immorality Morality》が出現。同館最大の展示スペースであるHall 6には、27点の絵画作品と7点の彫刻作品が紹介されている。
ハイライトのひとつは、松山にとって最大級の彫刻作品となる高さ8メートルの着彩されたステンレス製の《She’s On the Other Line》。携帯電話とハンドバッグを持ち、現代社会において忙しく活躍する女性の姿が活き活きと表現された作品となっている。いっぽうで、本展の最後を飾る7メートルの絵画作品《You One Me Erase》の背景には、人種的、性的など様々な面で“マイノリティ”として活動した歴史的な作家や現存の作家の絵画作品96点が松山独特の引用によって描き直されている。
南條はステートメントで、松山について次のように評価している。「松山は、多才なアーティストである。それは絵画表現の多様性からも言えることだ。作品のなかで織り上げられているモチーフは日本的な風物から欧米、アジアの伝統文化、現代文化までが混交している。登場する人物のファッションも同様で、しばしば部屋着のようなその衣類は、ビンテージの衣服に見られる装飾柄から、抽象絵画のような表現、そして華やかな草木、鳥や小動物などのモチーフで飾られている。人物像は、どこの国籍、人種かわからない、すらりとして様々な都会的ファッションを身にまとった人たちだ。そしてインテリアの様子も、椅子やドア、床などを見ると一部はアジア的、一部は西欧的で、その文化の様相は極めてエクレクティックである」。
「(中略)彼が援用する多様なモチーフは、東西、南北の視覚文化と生活様式の綿密なリサーチに基づいており、その生真面目とも言えるリサーチが、松山の絵画制作の根底を支えている。1枚の絵画、1体の彫刻が生まれるには、数十回に及ぶ古今東西のイメージの収集と選択、調整があり、それが作品の視覚体験の豊穣さをつくり出している」。
松山の近年の芸術的実践を一望できる本展。上海に行く機会があれば、ぜひ立ち寄ってみてほしい。