ニューヨークを拠点に活動し、今年7月に新宿駅の東口駅前広場に巨大なパブリック・アートを発表したことでも注目を集めたアーティスト・松山智一。その中国本土初の個展 「Accountable Nature」が、11月12日より上海の龍美術館西岸館(ロン・ミュージアム・ウエストバンド)で開催される。
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日本とアメリカという異なる文化背景のなかで育ち現代を生き、アーティストとしてのキャリアを積み重ねてきた松山。その作品は、都市という「ひとつの世界」における様々な文化の融合を体現している。例えば、日本古来の伝統色や蛍光色の独特な組み合わせが画面を構成するキャンバス作品では、古典絵画やアンティークの文様、雑誌のピンナップやインターネット広告、そして東洋と西洋のイメージなどの要素を並置させることで、多様で曖昧な現代の文化を描写する。
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また、千羽鶴をモチーフにした抽象シリーズでは、松山は西洋の近代美術の文脈で排除されてきた、東洋美術によく見られる願掛けや縁起担ぎなどの要素を独自の色彩を用いてフラットで抽象的に描写。西洋で確立された抽象画の概念に挑戦し、未知の領域へと美の定義を探知する。
本展のタイトル「Accountable Nature」は、自然災害や予期せぬ出来事が社会や経済の機能を麻痺させることを意味する「force majeure(不可抗力)」という言葉にちなむ。人は自然の恵みを享受し、平時は両者の間に安定的な関係が築かれるが、ときに猛威を振るう自然はその信頼関係を揺るがし、人は抵抗するすべを失ってしまい、理不尽とも思える自然の力に説明責任(accountable)はないということを象徴する。
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本展では、松山が人々の生活空間に漂うこのような観念を具現化した7メートルにおよぶ巨大彫刻《Nirvana Tropicana》をはじめ、キャンバス作品などの代表作や最新作を体系的に展示。現代においてアーティストが果たすべき使命に支えられたその思想を紹介する。
「我々の生きる時代をとらえ、表現することがアーティストの役割である」とつねに述べる松山。自然とデジタル、現実と非現実といったいまの時代を構築する不安定な二項対立を描きだす作品群を味わってほしい。
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