美術手帖2021年6月号
「松山智一」特集
「Editor’s note」

『美術手帖』2021年6月号は「松山智一」特集。雑誌『美術手帖』編集長・望月かおるによる「Editor’s note」です。

美術手帖2021年6月号より

 この4月、1948年から雑誌『美術手帖』を発行してきた美術出版社はカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下、CCC)へ一部事業が吸収分割され、今号より本誌の発行はCCCへ移行。銀座蔦屋書店をはじめ、OIL by 美術手帖、ウェブ版美術手帖とともに、これまで以上に連携の強化を図っていくことになりました。

 新たな体制のなか発行される最初の号は、松山智一特集である。2002年以来ずっとニューヨークを拠点とする松山の作品を、実際に目にしたことがある読者はそう多くはないかもしれない。25歳でグラフィックデザインを学ぶために渡米するも、やがてアーティストをこころざし、独学で現代美術を勉強。ブラック・ライブズ・マター運動にみられるように、欧米・白人中心主義が根強いニューヨークのアート界において、マイノリティであるという逆境を活かし、ほかの作家と差別化しうる方法論を模索した。結果、商業メディア上の広告イメージや、古今東西の文化を象徴する図像を過去の美術作品からサンプリングし、あえて文化や文脈を分断・混在させてコラージュするという手法を生み出す。その先例としては、グラフィックデザイナーの粟津潔や横尾忠則を挙げるキュレーターもいる。また日本の技巧と西洋の意匠を共存させた明治時代の輸出工芸品を彷彿とさせる、異なる文化の混合から生まれる独特な景色も、松山作品の特徴と言えるだろう。

 第2特集では、松山同様、ニューヨークを活動の場としてきた笹本晃、荒川医、上松祐司、大山エンリコイサム、そして美術史家の富井玲子にも話を聞いた。それぞれのアイデンティティも、絵画やパフォーマンスなど形式も異なるが、いずれも先人が綿々と紡いできた美術の歴史の延長線上に、どう自分なりの表現を構築するかを追求している。こうした表現について、富井は「オリジナリティ(独自性)」ではなく、「オーセンティシティ(真正性)」という言葉への切り替えが必要だと言う。西洋に対する「日本らしさ」やたんなる新しさという安易な独自性によらず、歴史に学びながら自身の表現を追求する。つくり手、受け手ともに多層化、多様化が進むいま、オーセンティシティを手がかりに、より大きな視座を獲得・更新していけるかが問われているように思う。

2021.04
雑誌『美術手帖』編集長 望月かおる

(『美術手帖』2021年6月号「Editor’s note」より)

編集部

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