横浜美術館では、毎年期待の若手作家を紹介する小企画展「New Artist Picks」を開催している。今回は、一貫して縫うことを表現手段に選び、おもに木片や木の葉、花びらといった自然物を素材に制作する柵瀨茉莉子(さくらい・まりこ)を取り上げる。会期は11月14日〜12月13日。
柵瀨は1987年神奈川県横須賀市生まれ。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士前期課程芸術専攻クラフト領域(木工)を修了。現在は横浜市を拠点に活動を行っている。
柵瀨にとって、ひと針ずつ素材を縫うという手作業は、自然物に刻み込まれた時の記憶をたどり、その記憶を目に見えるかたちで留める行為だという。「いのちを縫う」と題された本展は、これまでの作品の展開を追うとともに、柵瀨が生まれ育った佐島(神奈川県横須賀市)を舞台とした作家の個人史がテーマの新作を発表。それは刺繍を教えてくれたという亡き祖母との思い出や、自然豊かな土地の開発に対して抱える違和感など、作家の個人的な記憶に由来する。
いずれの作品も、命あるすべてのものへの作家の眼差しと、生命の儚さに寄せる普遍的な共感で満ちあふれる。柵瀨にとって縫うことは、普通に過ごしていれば気にも留めないような素材に新たな命を吹き込む行為でもある。