東京・天王洲のKOSAKU KANECHIKAで、沖潤⼦の個展「刺繍の理り」が開催される。会期は7⽉18⽇~8⽉22⽇。
沖は1963年生まれ、現在は鎌倉市を拠点とする。刺繍の手法を用いて、古い布や道具が経てきた時間や物語の積み重なりに自身の時間の堆積を刻み込み、新たな生と偶然性をはらんだ作品を発表してきた。
現在、⼭⼝県⽴萩美術館・浦上記念館で開催中(2021年3月28日まで)の個展「anthology」では、全国から寄せられた7000個あまりの糸巻きを用いたインスタレーション作品を発表。それぞれの糸巻きに内在する時間と、布を支持体としておびただしい数の針目によって立体化された刺繍の造形が茶室を舞台に出会い、1年の展示期間を経て新たな物語をつくっていく。
それぞれの時間を出会わせ、混ぜ合わせて、新たなものを生み出すための媒体ともいえる沖の作品。しかし本展ではシンプルに「刺繍」そのものに向き合い、「理(ことわ)り」という言葉が示す通り、沖が解する「刺繍のもっともであるさま」を提示。膨大な針目の筆致を持つ約10点を発表する。
沖の作品の変化は、以前と同じ状態には戻れないこと、人間の営みは不確定なものであることを誰もが知る、危機の時代と重なり合うようにも見える。原点に立ち返りながら、新たな始まりを見せる沖の「刺繍の理り」を本展で目撃したい。