孤立者の声に耳を傾ける。「アイムヒア プロジェクト|渡辺篤 修復のモニュメント」が横浜・BankART SILKで開催

自身も過去にひきこもりの経験を持つ美術家・渡辺篤を中心として、2018年に発足した「アイムヒア プロジェクト」は、ひきこもり当事者をはじめとする孤立者に伴走するかたちで、その存在や声を社会に向けて発信し、共に考え、アートによって社会に直接的な作用をもたらそうという試みだ。2019年その延長として新たな企画「修復のモニュメント」が行われ、その成果と過程を発表する展覧会が、2月21日~3月15日に横浜・BankART SILKにて開催される。

 

渡辺篤 monument_3 修復のモニュメント「病院」 2019 (C)AtsushiWatanabe 2019, (C) Iʼm here project2019 共同制作=S氏 撮影=Keisuke Inoue 撮影助手=Ryoko Inoue

 自身も過去にひきこもりの経験を持ち、孤立の問題や心の傷にまつわるテーマで活動している美術家・渡辺篤を中心として、2018年に発足した「アイムヒア プロジェクト」。その最新の企画を展示する展覧会「アイムヒア プロジェクト|渡辺 篤 修復のモニュメント」が2月21日~3月15日に横浜・BankART SILKにて開催される。

 同プロジェクトは、ひきこもり当事者をはじめとする孤立者に伴走するかたちで、その存在や声を社会に向けて発信し、共に考え、アートによって社会に直接的な作用をもたらそうという試み。そしてその延長として行われた「修復のモニュメント」は、ひきこもり当事者/経験者と渡辺が対話型の共同制作をし、ひとつの作品をつくり上げるという企画だ。

 具体的には、それぞれの孤立に至った原因やその時の心情を、渡辺がコンクリート製の造形物として制作し、それを一度ハンマーで破壊した後、陶芸の伝統的な修復技法「金継ぎ(きんつぎ)」を引用して、互いの思いや経験を話し合いながら修復していく。できてしまった傷を「元通りの状態に戻す」のではなく、それらを肯定し受け入れながらいまに適応していく新たな「回復」の方法と、見過ごされ、抑圧され続けてきた当事者が発信できる場を模索する。本展では、その完成作品と制作過程を捉えた映像作品が展示される。

 また、会場ではプロジェクト《被害者と加害者の振り分けを越えて》も同時進行。会場の床に敷き詰められたコンクリートタイルは、来場者によって踏まれると高頻度で割れてしまう仕組みとなっている。無自覚のうちに加害者となってしまうことを表したこの仕掛けから、困窮者支援やケアの名の下であっても自動的に発生し続ける加害性や、それに対する自己批判の必要性を鑑賞者に訴えかける。

 会期中の金土日の18:00からは、渡辺による作品解説、さらに共同制作者によるゲスト出演も予定されている。作品を見ながら、当事者の生の声にも耳を傾けたい。

monument_4 修復のモニュメント「卒業アルバム」 2019 (C) AtsushiWatanabe2019, (C) Iʼm here project2019 共同制作=T氏 撮影=Keisuke Inoue

編集部

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