2020.2.16

風間サチコが最新シリーズで見せる「セメントの墓地」とは? 無人島プロダクションで開催中の個展をチェック

黒一色の木版画で、現在と過去、そして未来に垂れ込む暗雲の予兆を表現してきた風間サチコ。その個展「セメントセメタリー」が、東京・墨田区の無人島プロダクションで開催されている。会期は3月8日まで。

風間サチコ 新秩序(from Kurobe gold series) 2019 撮影=柳原良平 Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production
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 2019年、黒部市美術館の個展「コンクリート組曲」で「クロベゴルト」シリーズを発表した風間サチコ。同シリーズに最新作を加えた個展「セメントセメタリー」が、東京・墨田区の無人島プロダクションで開催されている。会期は3月8日まで。

 「クロベゴルト」シリーズは、コンクリートを利用し、土木技術の開発力をもって自然を人間のためにデザインする新たな秩序をテーマとしたもの。風間は、その新秩序と日本の近代化の歴史の縮図を「ダム」に見出し、神々になぞらえて人間のエゴや支配欲を描いたワーグナーの楽劇『ニーベルングの指輪』4部作の「序夜」にあたる「ラインの黄金(ラインゴルト)」を重ねてシリーズを制作した。

風間サチコ ヴァルハラ(from Kurobe gold series) 2019 撮影=柳原良平 Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production

 本展はその流れを汲みつつ、コンクリートの原料であるセメントと、その材料である石灰岩(石)に焦点を当てたもの。有機物の誕生と死滅の繰り返しによって生成される石灰石と、それを一瞬のあいだに消費し、効率と合理性で整備された近代的な風景を生み出してきた人類。風間はその栄華を象徴するように見える高層ビル群を、同時にセメントの墓標としてとらえ、現代の矛盾と課題を鋭く指摘する。

 最新作のひとつ《セメントセメタリー》は、フロッタージュ技法を用いて、石灰鉱山が「墓標」と化していくプロセスを表わしたもの。またもう1点の《セメント・モリ》では、石灰を切り出す掘削作業員が、自然を切り崩す「墓掘り人」でもある皮肉を、木版画を使ったインスタレーションで表現する。

風間サチコ Fasolt & Fafner(from Kurobe gold series) 2019 撮影=柳原良平 Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production

 現代社会に生きるなかで、誰もが無縁ではいられない問題において、自らも時代における共犯者であることを自覚しながらどのように折り合いをつけていくのか。本展では、現在の問題を糸口として過去に遡り、作品によって未来を暗示してきた風間のコンセプトと、セメントと石灰石をめぐる長い歴史のストーリーのシンクロを見ることができるだろう。