2019.7.19

小泉明郎が個展「Dreamscapegoatfuck」を無人島プロダクションで開催。加害者/被害者、双方の追体験を促すふたつのインスタレーションを初めて同時発表

無人島プロダクションが、東京都墨田区江東橋に移転。こけら落としとして小泉明郎展「Dreamscapegoatfuck」では、戦争の「加害者」「被害者」双方の追体験を促すふたつのインスタレーション作品と、立体作品《Sleeping Boy》(2015)を見ることができる。会期は7月20日〜8月31日。

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 無人島プロダクションが、東京都墨田区江東橋に移転。こけら落としとして小泉明郎展「Dreamscapegoatfuck」が開催される。

 本展は、日本では初披露となる映像インスタレーション作品およびVRのインスタレーション作品に加えて、1点の立体作品で構成。映像インスタレーション《Battlelands》(2018)は、マイアミのペレス美術館からの依頼を受けて制作された作品だ。小泉はこの作品制作のために何度もマイアミを訪れ、イラク戦争とアフガニスタン戦争で従軍し帰還したアメリカの退役軍人7名の協力を得て撮影を行ったという。

 同作は、彼/彼女らに目隠しをし、GoProカメラを頭に装着させた状態で、実際に暮らす住居や街での日常生活を言葉で描写してもらい、そして次に、戦地でもっともストレスを感じた瞬間を、記憶をもとに描写してもらったもの。この2種類の映像を編集によって継ぎ目なく混在させた映像は、戦争が日常の地続きに感じるかのような内容となっている。

 戦争と破壊という極限の状態が、人々の記憶やその後の日常生活にどのような影響をおよぼすのか、また命令に従う状況の兵士にとって個人的な「選択」とは何か、感情のなかの戦いはどこまで続くのか。同作は、華やかなアメリカンドリームの裏に潜在するこれらの問いに、小泉が数年かけて取り組んだ作品だ。

 この《Battlelands》の完成後、小泉は、自身初となるVRインスタレーション《Sacrifice》(2018)の制作のためにバグダッドでの撮影を敢行。同作で協力を得たイラク人の若者・アハメッドは、アメリカの退役軍人とは逆の立場、すなわちイラク戦争で家族を殺され失った。

 同作で鑑賞者は、アハメッドのバーチャルな身体に潜り込み、自身の身体を重ね合わせながらアハメッドの体験を聞く。その語りは幼少期の記憶から始まり、戦争が始まった日のこと、家族が目の前で殺された瞬間を経て、さらに逃れられない記憶の底へと鑑賞者を誘う。

 《Battlelands》はこれまでにマイアミ、ロンドン、ミネアポリス、マドリッド、アムステルダムで、《Sacrifice》はソウル、アブダビ、アムステルダムで発表されてきたが、対となるこの2作品の同時発表は本展が初となる。(《Sacrifice》は事前予約優先)

 本展で、「加害者」「被害者」双方の追体験を促すふたつのインスタレーション作品をつなぎ合わせるのが、立体作品《Sleeping Boy》(2015)だ。同作は、小泉が息子が生まれてから数年間、息子の死のイメージが脳裏から離れず悩まされた時期に制作されたもの。悪夢のようなイメージに脅迫されながらも子供を守っているという父性本能に気付いた小泉が、その思いを具現化するように、寝ている息子のそばで頭や手足を粘土でかたちづくったという。

 「息子の死」は、現実の体験を扱ったふたつのインスタレーション作品とは違い、あくまでも小泉の脳裏に現れた仮想だが、守る本能と戦闘本能は表裏一体にあり、人々の無意識に取り憑いたこの仮想イメージによって、世界は突き動かされていると小泉は考えている。

 鑑賞者は、当事者が語る凄惨な現実を、仮想空間内で、もしくはスクリーン上で安全な距離を保ちながら体験・鑑賞する矛盾と向き合う。共感や感情移入を促す装置として映像メディアを使い、戦争の表象における集団的無意識と欲望を作品化してきた小泉の近作に注目したい。