2020.1.28

第30回タカシマヤ文化基金に風間サチコ、小泉明郎、contact Gonzo。「芸術にしかできないことがあるはず」

1911年に美術部を設立し、日本の美術界で存在感を示してきた髙島屋。この髙島屋が1990年度から行っているタカシマヤ文化基金が、30回の節目を迎えた。今回の受賞者は、風間サチコ、小泉明郎、contact Gonzoの3組。

 

中央が小泉明郎、風間サチコ

 今年で30回を数える公益信託タカシマヤ文化基金。その贈呈式が、日本工業倶楽部で行われた。

 同基金は、髙島屋が新進作家とシンポジウム開催団体を助成するものとして、1990年度から活動を開始。これまで舟越桂(1990)、やなぎみわ(2005)、束芋(2008)、ヤノベケンジ(2010)、目(2017)、田中功起(2018)など、80組21グループを助成してきた。

 選考にあたっては、33名の推薦委員が推薦したアーティストのなかから7名の運営委員が助成対象を選出。今年の受賞作家は、風間サチコ、小泉明郎、contact Gonzoの3組。団体助成には大原美術館千葉市美術館東京都現代美術館の3館が選ばれ、アーティストには各200万円が、大原美術館と千葉市美術館には70万円が、東京都現代美術館には60万円が贈られた。

 風間サチコは1972年東京都生まれ、96年武蔵野美術学園版画研究科修了。ダイナミックな黒一色の木版画で知られ、近現代の社会的な事象への関心を起点として、ときにコミカルに現代社会や歴史の直視しがたい現実をとらえている。近年は個展「東京計画2019 vol.2 風間サチコ:バベル」(gallery αM、2019)、「ディスリンピア 2680」(原爆の図丸木美術館、2018)を開催。また、19年には、「Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021」を受賞した。

 小泉明郎は1976年群馬県生まれ。国際基督教大学卒業後、ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで映像を学んだ。国と個人や、精神と身体の関係を探究し、演劇的な手法によって映像作品を生み出しており、16年には天皇の肖像を扱った連作「空気」を制作。「MOTアニュアル2016 キセイノセイキ」展(東京都現代美術館)で出品不可となったことが話題を集めた。また「あいちトリエンナーレ2019」ではパフォーミングアーツで参加したほか、「表現の不自由展・その後」展示中止に対して再開を呼びかける「ReFreedom_Aichi」でも主要な役割を果たしたことは記憶に新しい。

 contact Gonzoは2006年に結成されたアーティスト集団で、現メンバーは塚原悠也、三ヶ尻敬悟、松見拓也、NAZEの4名。肉体を即興的に激しくぶつけ合うパフォーマンスを中心に、映像・写真作品の制作や展覧会への参加など、幅広い活動を行ってきた。

 贈呈式では、それぞれがあらためて文化の重要性を強調したことが印象的だ。

 風間は「『文化』という言葉が重要」としながら、「情報が過多になって、文化を築く意識が薄れている。21世紀の文化の屋台骨となる覚悟で続けていきたい」と強い覚悟を滲ませた。

 いっぽう小泉は「芸術にしかできないことがあるはずだと信じている。そういう気持ちで、賞に恥じないように作品をつくっていきたい」とコメント。激動の2019年を経たからこその言葉だと言えるだろう。

 またcontact Gonzoの塚原は、「去年は現代美術にとっても変化の大きな年だった。よりこれまで以上に力強く、はっきりとクリアなメッセージを体現できたら」としつつ、「賞はアーティストの背中を押すだけでなく経済的にもサポートしてもらえる」と助成の重要性についても触れた。

 贈呈式では文化庁の芸術文化調査官・林洋子が登壇。「(あいトリをめぐる)補助金問題を考えると心苦しい」としながら、「補助金について関心が集まりやすいが、現場の者として注力しているのは若手作家の育成と、その後の顕彰。分断を乗り越えて新たな創造活動を」と語りかけた。

 なお、団体助成の内容と使途については以下の通りとなっている。

 大原美術館は、同館の礎となるコレクションを収集した児島虎次郎の作品収集に関わる日記や手紙、領収書等のデータベース化を実施。その成果を90周年特別記念展として公開する。

 千葉市美術館は、千葉ゆかりの日本画家・田中一村にまつわる近年収蔵された作品・資料約100件の画像化、展示に向けての修復、展覧会パンフレットの刊行を行い、その成果は21年の開館25周年記念「田中一村展〜千葉市美術館所蔵全作品〜」(仮称)で発表する予定だという。

 また東京都現代美術館は、今年春に予定されている「カディスト・アート・ファンデーション」との共同展覧会「もつれるものたち」に関連する国際シンポジウムを開催予定。