名画や映画の登場人物、歴史上の人物に自らが扮するセルフ・ポートレイト作品で知られる森村泰昌。1985年に《肖像(ゴッホ)》で鮮烈なデビューを果たして以来、一貫して「私とは何か」という問いに取り組んできた。近年は、自らが脚本を手がけ自演する映像作品や、ライブパフォーマンスへと表現の領域を広げている。
そんな森村の個展「森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020―さまよえるニッポンの私」が、原美術館で開催される。会期は2020年1⽉25⽇~4⽉12⽇。
本展は、2018年の個展「Yasumasa Morimura: Ego Obscura」(ジャパン・ソサエティー、ニューヨーク)の凱旋展に位置づけられるもの。今回のために再編集された映像作品《エゴオブスクラ》には、日本人の記憶に深く刻まれている昭和天皇とダグラス・マッカーサー、そしてマリリン・モンローや三島由紀夫らに扮した森村が登場。また森村は同作を用いた会期中のレクチャー・パフォーマンスを通じて、日本近現代史・文化史に言及する。
戦後、それ以前の教えが否定され、日本人に広がった「空虚」は、やがて西洋の価値観で埋められることとなった。1951年の大阪に生まれた森村は、その時代の教育を受けた経験から「真理や価値や思想というものは(中略)いくらでも自由に着替えることができるのだ」という発想を導く。そして「エゴオブスクラ(Ego Obscura)」という言葉に「闇に包まれた曖昧な自我」という意味を込め、愛情だけでは片付けられない母国への複雑な感情をにじませながら、セルフ・ポートレイトというかたちで「さまよえるニッポンの私とは何か」という命題に挑む。
加えて本展では、エドゥアール・マネ《オランピア》(1865)を題材とした新旧作が競演。白人の娼婦と黒人の召使いを、黄色人種の男性である森村が演じる初期代表作《肖像(双子)》(1988)から30年後、森村は若い娼婦を蝶々夫人を思わせる芸者の姿に、召使いを西洋男性の姿に変えて新作《モデルヌ・オランピア》を手がけた。また、同じくマネ晩年の作品を原作とする「フォリーベルジェールのバー」の最新作も発表される。
館内のトイレを作品化した常設インスタレーション《輪舞(ロンド)》(1994)のほか、ふたつの個展を開催するなど、森村にとってゆかりのある原美術館で開催される本展。戦後日本の復興を印象づけた東京オリンピックから55年を経た2020年、再び東京でオリンピックが開かれる年に、森村が投げかける「私とは何か」という問いの一端に触れることができるだろう。