加藤泉の現在形。原美術館で個展「LIKE A ROLLING SNOWBALL」を見る

原始生命体を思わせるモチーフで多様な作品を生み出す加藤泉。その個展「LIKE A ROLLING SNOWBALL」が、群馬・伊香保のハラ ミュージアム アークに次いで、東京・品川の原美術館でも開幕した。新作が並ぶ本展の見どころとは?

 

展示風景より、手前は《無題》(2019)

  加藤泉の個展を、2つの美術館で同時に見ることができるときが来た。

 今年7月、群馬・伊香保のハラ ミュージアム アークで個展「LIKE A ROLLING SNOWBALL」をスタートさせた加藤が、今度は東京・品川の原美術館でも同名の個展をスタート。この両館をひとりのアーティストが独占するのは、史上初めてだ。

 加藤泉は1969年生まれ。武蔵野美術大学造形学部油絵学科在籍中の90年代半ばから絵画作品を発表し、2000年代からは木彫も制作。07年にヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展へ招聘されたことをきっかけに国際的な評価が高まり、18年には北京のレッドブリック美術館で日本人初の個展を開催した。

 原美術館に先んじて開幕したハラ ミュージアム アークでは、1994年から2019年のあいだに制作された143点もの作品が、3つのギャラリーと特別展示室「觀海庵(かんかいあん)」の4つで展示され、そのキャリアの全貌を概観するものとなっている。

ハラ ミュージアム アークの展示風景より

 そして今回開幕した原美術館の個展は、加藤にとって東京の美術館では初の⼤規模個展。当初の展示予定点数は30点だったというが、会場に並ぶのは新作を含む69点もの絵画、彫刻作品。この数字を見ても、加藤の本展にかける意気込みが感じられる。加藤はこう語る。「アーティストはいまつくっている作品が一番重要。僕はわりと自信家なので、いまの作品を見せたいと思った」。

 美術館に入って最初の展示室であるギャラリー1では、レッドブリック美術館やハラ ミュージアム アークでも展示された、巨大なファブリックの作品を1点のみ展示。布に走る筆致の一つひとつまで、至近距離でこの大作と向き合うことができる。

無題 2019 600×207cm 布にパステル、アクリル絵具、革、刺繍、アルミ、鎖、石にリトグラフ

 原美術館の特徴でもある、湾曲したギャラリー2。ここには、過去半年でつくられた油絵と木彫だけが並ぶ。なかでも注目したいのは、あたかもキャンバスが分割されたように見える、2枚で1組の油絵だ。

ギャラリー2の展示風景より

 加藤はこの2枚1組の油彩作品について、その制作理由を「1枚のキャンバスに描く仕事は比較的イージーだから」と話す。ソフトビニール人形のジョイントなどからインスピレーションを受けたというこの制作手法。「絵でも彫刻でも、他の人がやってることをやってもしょうがない。僕でしかできないことをやりたい」とその動機について語る。

 なお、ギャラリー2の奥にあるサンルームにはサンゴを使った立体が横たわり、庭にはハラ ミュージアム アークで拾った石にペイントした2つの作品が潜む。こちらも見逃さないようにしてほしい。

庭に展示された《無題》(2019)

 ファブリック作品が掛けられた階段を上がり2階へ。 展示は本展で唯一、入れないように結界が施されたギャラリー3、小さな絵とファブリックの作品が多数対面するように展示されたギャラリー4と続く。

ギャラリー3の《無題》(2019)
ギャラリー4の《無題》(2019)

 そしてクライマックスであるギャラリー5は、本展でも特徴的な空間だ。そこまるで博物館のように、ガラスケースが整然と並んだ空間。 加藤は「博物館が好きで、博物館のようなケースをつくった。博物館のようなインスタレーションにしようとイメージしていた」と話す。

ギャラリー5の展示風景より

 「彫刻は台が重要。美術館にあるような白い台は絶対使いたくない」という加藤。本展で立体作品を収めているケースも、家具屋にオーダーした特注品だ。

ギャラリー5の展示風景より、《無題》(2019)
ギャラリー5の展示風景より、《無題》(2019)

 回顧展的な要素が強いハラ ミュージアム アークの個展と、それを超えた現在の作品を見せる原美術館の個展。両展を通覧することで、加藤泉というアーティストがいかにユニークな存在であるかがよくわかるだろう。

 原美術館は2020年末での閉館が決まっているため、2つの美術館を使っての加藤の個展はこれが最初であり最後でもある。この貴重な機会を、ぜひ目撃してほしい。

館内には意外なところに作品が展示されているので見逃さないようにしたい

編集部

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