何翔宇(へ・シャンユ)は1986年生まれ、現在ベルリン在住。127トンのコカ・コーラを煮詰めた残留物の山や、イタリア製のレザーを用いた中国軍の戦車など、批評的な視座を軸として現代社会の構造をあぶり出す大規模なプロジェクトを行ってきた。今年の第58回ヴェネチア・ビエンナーレでは中国館の展示作家のひとりに選出され、ますますその存在感を強めている。
何翔宇は近年、個人的な感覚領域に目を向け、身体を経由した知覚の描写を中心とする作品群を展開。人々の感覚を刺激する黄色の効果を果実のレモンとの文化的関連性のなかで探る「Lemon Project」(2014~)といった実践は、触覚や味覚など現代社会における視覚に対して周縁部に追いやられた身体的感覚の回復の試みでもある。
そんな何翔宇の個展「Who Are Interested in Us」が、東京・谷中のSCAI THE BATHHOUSEで開催される。会期は11月18日~12月21日。
本展で何翔宇はこれまでの実践を推し進め、「内と外」という二元的対立や矛盾についての考察を中心とした作品群を発表。その制作は、見捨てられていた素材や検討されなかった考えなど、自身のスタジオ内での廃棄材料の収集からスタートしたものだ。
例えばひと揃いの靴下は対立関係を端的に表し、床に置かれたガラスとそのエッジをなぞるようなドローイングは、絵画と彫刻のふたつの性質を帯びている。またエッジからわずかに外れたような線は、事物を隔てる境界の曖昧さを示す作家の象徴的な仕草のようにも見える。
そのほかにも足のうちの一本がブロッコリーに置き換わった椅子は、ユーモアにあふれた、鑑賞者の想像力を刺激する作品だ。何翔宇は同作について「足の欠落は、人間としての我々自身の欠陥を表しています。しかし我々は、自身の欠落をいつも想像力で補って来ました」と語る。
なお本展にあわせ、天王洲のSCAI PARKでも何翔宇展が開催(11月19日~22日)。対立構造や概念、素材への考察を通してやわらかなイメージの連なりを展開する作品群を、この機会に目撃したい。