ウィリアム・モリスの研究者、そしてひとりの編集者であった小野二郎(1929~82)。その活動をたどる展覧会「ある編集者のユートピア 小野二郎:ウィリアム・モリス、晶文社、高山建築学校」が、世田谷美術館で開催中だ。
モリスは19世紀後半のイギリスを代表する思想家、詩人、デザイナーで、「モダンデザインの父」として知られている。本展では、モリスの芸術運動をめぐる考察を日本で展開させた小野と、その周辺の活動を紹介する。
小野は東京大学卒業後、弘文社を皮切りに編集活動を開始。1960年には中村勝哉と晶文社を設立し、平野甲賀による装幀が出版社の顔となる。同社では、ヴァルター・ベンヤミンやポール・ニザンなどの著作をいち早く紹介するほか、ジャズやロック、映画関連の書籍も数多く出版。60〜80年代の出版文化に少なからぬ影響を与えた。
いっぽう、明治大学教授として英文学を講じる教育者でもあった小野。晩年には飛騨高山の高山建築学校でモリスの思想を説き、石山修武などの建築家に大きな影響を与えた。本展では、モリス、晶文社、高山建築学校の3部構成で、モリスの思想から小野が独自に展開した「ユートピア」を探る。
注目したいのは、52歳で早世した小野の夢を託しユニークな活動を行った高山建築学校に関連する資料の数々。加えて、モリスが立ち上げた印刷工房であるケルムスコット・プレスをはじめ、石山修武の自邸《世田谷村》の模型やスケッチ、川俣正による《“ピープルズ・ガーデン”のためのプラン》なども見ることができる。