100年後の理想郷と、住人たちに思いを馳せて。福井篤が個展「アルカディアン」で新作ペインティングを発表

植物や動物、少女、日常生活の断片など、様々な要素を静謐な画面に落とし込む福井篤。その個展「アルカディアン」が、東京・六本木の小山登美夫ギャラリーで開催される。会期は2月16日〜3月9日。

福井篤 窓辺にて 2019 ©Atsushi Fukui, Courtesy of Tomio Koyama Gallery, Tokyo

 福井篤は1966年愛知県生まれ、89年東京藝術大学美術学部油画科卒業。主な参加展覧会に「六本木クロッシング」(森美術館、2004)、「高橋コレクション展 マインドフルネス!」(鹿児島県霧島アートの森、2013)、「air」(游庵、2016)などがある。

 自らの独創的な思考に基づき、キノコや木などの植物、森のなかの少女、動物、現代の日常空間の断片など、さまざまなモチーフを中心に扱う福井。少年時代に魅了されていた欧米のSFコミックスに影響を受け、壮大で時空間を超越するような、独自のイメージとスケール感のある絵画を手がけてきた。

福井篤 お友達 2019 ©Atsushi Fukui, Courtesy of Tomio Koyama Gallery, Tokyo

 今回の個展タイトルは「アルカディアン」。「もしも100年前に、地球と地球外の文明とのオープンなコンタクトが起こっていたとしたら、もっと自由で驚きに満ちた世界になっていたかもしれない」というテーマに基づき、地球外文明と地球の文明が融合した100年後の世界や、福井にとっての「アルカディア」(理想郷)に住む人々の姿を描いた新作を発表する。

 福井は「全体を通した具体的なストーリーはないですが、お話があるかのように見せるのが好きです。」(『イラストレーション』、玄光社、2005年3月号)と語る。作品のなかの「アルカディア」に人影は多くない。わずかに現れる「アルカディアン」たちも明確なストーリーを伝えているわけではなく、目に見えないなにかを視覚化するために人の姿を借りたように佇んでいる。

福井篤 コクピット 2019 ©Atsushi Fukui, Courtesy of Tomio Koyama Gallery, Tokyo

 また今回の新作では、欧米のコミックに影響を受けた、アウトラインを描いてから色を塗る手法が変化。アウトラインはより曖昧でペインタリーな表現になり、画面には一層の一体感と柔らかさが与えられている。

 事物の存在や現実の生きづらさから解放され、「もっと自由で驚きに満ちた」理想世界を広げることに真摯に向き合い続ける福井。さらに表現を新たに、違う時空間へと私たちを誘う福井の新作に期待が高まる。

福井篤 空の何か 2019 ©Atsushi Fukui, Courtesy of Tomio Koyama Gallery, Tokyo

編集部

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