福岡アジア美術館で開催された「闇に刻む光 アジアの木版画運動 1930s‐2010s」が、群馬のアーツ前橋に巡回する。
特殊な素材や道具を必要とせず、安価に複数の作品を制作できるDIY的な簡便さから、アジア各地の政治・社会運動のなかで多く生み出されてきた木版画。社会の問題をえぐり出し、離れた人々との連帯を求める「メディア」として、アジアの近代化に重要な役割を果たしてきた。
1930年代、木版画は魯迅の推進により中国各地で展開。日本では、戦後の民主化運動やサークル誌で木版画が盛んになる。また80年代の韓国では、激烈な民主化運動のなかで木版画がさまざまに活躍。今日も、インドネシアやマレーシアではパンク音楽家や美術家グループが、自由と自立を求めるメッセージを木版画で発信し続けている。
本展ではこれらの時代・地域の作品のほか、ベンガルの独立運動、シンガポールの日常、ベトナム戦争、フィリピンの闘争などをテーマとした木版画作品や、印刷物などの資料約400点を展示。
またそれに加え、木版画運動と共鳴する現代アジアのアーティストの表現として、韓国・鍾路区(チョンノグ)の再開発による立ち退きが決まった団地で住民たちと様々なプログラムを行ったオギン・コレクティヴ(韓国)、移民の労働問題や海洋汚染問題についてのプロジェクトを行うイルワン・アーメット&ティタ・サリナ(インドネシア)の2組を紹介する。
20世紀以降多くの国や地域で分断が生まれるなか、近代化が引き起こす諸問題を共有し、文化交流を超えた共感のネットワークを生み出してきた木版画運動。本展では30年代から、新たな実践としてソーシャリー・エンゲイジド・アートなどの動向を生み出した現代まで、その表現の変遷を見ることができるだろう。