1971年に『センチメンタルな旅』を発表して以来「私写真」を提唱してきた荒木経惟。生と死、幸と不幸が同居する膨大な作品群は、現在写真集にしておよそ550冊に及ぶ。
今回の個展「愛のバルコニー」では、自宅のバルコニーを1982年から2011年まで撮り続けた写真約80点を発表する。
広いバルコニーが気に入って住み始めた世田谷区豪徳寺のマンションに、取り壊しにより立ち退きを余儀なくされるまで暮らしたという荒木。写真には、バルコニーという限られた空間のなかで、妻・陽子や愛猫のチロとの穏やかな日常が写し出されている。
荒木は1990年に妻を亡くし、その後は遺品や猫、花、怪獣のフィギュアなどを被写体に撮影を続けてきた。愛するものたちの死を経験し、時間とともに変化していくバルコニーの様子は、写真家の心情を表しているようでもある。
30年の月日のなかで、荒木がひっそりと続けてきた「愛の記録」を垣間見ることができる本展。同会場では、展示作品を収めた図録が制作・販売される予定だ。