2018年に開館20周年を迎えた茅ヶ崎市美術館では、年間を通して「版の美」と称し、版画の魅力を伝える展覧会を開催している。その第2回目は木版花鳥画、版下絵の制作で知られる小原古邨(おはら・こそん)の展覧会「原安三郎コレクション 小原古邨展 ―花と鳥のエデン―」だ。
石川県金沢市に生まれた小原古邨(1877~1945)は、花鳥画を得意とした日本画家・鈴木華邨に師事し、古邨の名前で絵画共進会に日本画を出品。たびたび褒状を得るなど高い評価を得ていた。
明治末期には版元・大黒屋から花鳥画を刊行、海外への輸出を念頭に置いた版下絵の制作で高い人気を獲得。その後昭和期に入ると、渡邊版画店から「祥邨」の名で、また酒井 好古堂と川口商会の合版では「豊邨」の名前で制作を続け、とくに海外で好評を博した。
古邨による花鳥画の魅力は、確かな画力と技術によって表現された淡い色合いの美しい世界。そして版元・大黒屋による高度かつ精緻な彫摺技術と、雪月花の情感までも表現する古邨の確かな力量だ。その作品からは伝統的な東洋絵画が持つ様式美に加え、西洋絵画的な躍動感や遠近表現が見られる。
また、正面摺やきめ出し、あてなしぼかしなど、江戸時代を通じて培われた版画技術が惜しみなく投入され、唯一無二の花鳥版画のシリーズが生み出されている。
本展は実業家・原安三郎の旧蔵によるもの。摺および保存状態がきわめていい原コレクションの古邨作品約260点のなかから、230点もの作品を初公開予定だという。
2016年から全国巡回した展覧会「広重ビビット」展でも、その豊富さと保存状態のよさが注目を浴びた原コレクション。本展では原安三郎についても紹介する。
海外では高い人気を誇りながらも、現代の日本国内ではほとんど紹介がされてこなかった古邨。その優美な花鳥画の世界をじっくりと堪能できる貴重な展覧会だ。