直線と立体を合わせた構成と幾何学的模様の装飾を特徴とし、1910年代から30年代にかけてフランスを中心にヨーロッパに花開いたアール・デコ。この時期に盛んとなった非ヨーロッパ圏の文化と美術の出会いは、アール・デコの美意識と造形に大きな影響を与えた。
魅惑的な肢体とダンスで瞬く間に時代のアイコンとなったジョゼフィン・ベイカー、ツタンカーメン王墓の発見、シトロエンが主宰したアフリカとアジアの横断プロジェクト、そしてパリ国際植民地博覧会。これらの「エキゾティック」なトピックは当時の人々にとって初めて、異なる文化圏の人々や文化と出合うきっかけとなり、パリを大いに賑わせ、創作のインスピレーションとなった。
そんなアール・デコとエクゾティスムの接近に焦点を当てた展覧会「エキゾティック×モダン アール・デコと異境への眼差し」が、東京・白金台の東京都庭園美術館にて開催される。
本展は、アフリカやアジアに当時の人々が訪れて取材したことで生まれたダイナミックな絵画をはじめ、彫刻からファッションまで、フランスの美術館所蔵の国内初公開作品を中心にした約85点を紹介するもの。同館で2015年に開催された「幻想絶佳:アール・デコと古典主義」展のアール・デコのイメージソースに着目するというアイデアを継承しつつ、「エグゾティスム」をテーマとすることで、アール・デコの知られざる魅力に迫る。
既存のイメージにとらわれない自由な造形、色彩、様々な美意識の交流に、多くの美術家やデザイナーたちが革新的な価値を見出した。ファッションの分野において、パリ随一のファッション・デザイナーであったジャック・ドゥーセは、アフリカ美術の造形からインスピレーションを受け、ポール・ポワレは中近東風の衣装による夜会「千二夜」を開くなど、その非日常性に着目し、色彩やスタイルの刷新につなげた。この発見は当時のモダニティへの触媒となり、これらの表現や他者に対する同時代の人々の関心は、現代でも新鮮に受け止められる。
当時の美術家やデザイナーたちが異境の地に見出した革新的な造形美を堪能するとともに、近代生活のはしりといえる機能的でありながらも装飾美を兼ね備えたアール・デコの新たな魅力に注目したい。