2018.7.3

東京都庭園美術館で
「ブラジル先住民の椅子」展が開幕。
浮遊感のある空間で
動物のかたちを堪能する

東京都庭園美術館で開催中の「ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力」展は、300点を超える「ベイ・コレクション」の中から選りすぐりの椅子約90点を展示した世界初の展覧会だ。建築家・伊東豊雄による空間構成とともにその造形美を楽しめる本展の見どころをお届けする。

「ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力」展 展示風景より
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  東京都庭園美術館で「ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力」展が開幕した。本展は、南米大陸、ブラジル北部のアマゾン川やシングー川流域で暮らす先住民の人々がつくる椅子に焦点を当て、そのなかから選りすぐりの約90点をピックアップ。建築家・伊東豊雄による空間構成とともに、そのユニークな造形世界を堪能できる内容となっている。

「ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力」展 本館展示風景より

  会場は、実用性としきたりに基づいた「伝統的な椅子」、プリミティブな宗教心が反映された「動物形態の伝統的な椅子」、先住民としての存在証明や想像力を示すための「動物彫刻の椅子」の3つのカテゴリーに分けて展示されている。

 装飾性の強い小部屋に分かれた本館(旧朝香官邸)では、「伝統的な椅子」と「動物形態の伝統的な椅子」が展示されており、庭園美術館特有のアール・デコ調と抽象的なフォルムのイスとの組み合わせを楽しめる。

 空間構成を担当した建築家の伊東豊雄は、「空間とイスの存在がぶつかりあうこと」「反対に、イスと空間が同調してしまうこと」の両方に注意を払い、イスを家具に見せないような空間構成を心がけたという。迫力のあるイスを軽妙に演出する展示台の上板は非常に薄く、それを支える脚の太さは不揃いとなっており、イスが浮き上がって見えるようなデザインによって、独特の相互作用を発生させている。

「ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力」展 本館展示風景より

 実用性やしきたりが重視された「伝統的な椅子」は、一木造の無駄のない造形を持つ。紐付きのイスは、狩猟の際に持ち運べるようにするためなのではないかと推測されており、時間も距離も離れているはずの先住民の暮らしをリアルに想起させる。

 2階で展示されている「動物形態の伝統的な椅子」は、野生動物から抽出したようなフォルムと、表面に施された独特の幾何学模様が特徴だ。多くのイスに見られる幾何学的模様は、猿や魚を抽象化したものであり、まるでユニークな動物彫刻。

 ブラジル先住民にとって野生動物は「神」とされており、豊かな造形美を持ったイスからは、人々の動物に対するプリミティブな宗教心がうかがえる。

「ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力」展 本館展示風景より

 窓の大きな客室では「鳥」をかたどったイスが中心に展示されている。伊東はその空間の特性を生かし、自然光を最大限に生かした展示方法を実践。中庭から鳥が飛んできたような印象を与える。

 ホワイトキューブの新館では、本館とは対照的な空間で「動物彫刻の椅子」を堪能することができる。たくさんのクッションが床に置かれており、実際に鑑賞者が座り込むことで、動物と同じ目線の高さで向き合うすることを狙った構成となっている。

「ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力」展 新館展示風景より

 子供も大人も楽しめる内容でありながら、様々な技術が進歩する現代社会において、造形美の原点回帰を図った本展。ブラジル先住民が生み出した豊かな造形美を、是非近距離で体感してほしい。