「国民文化祭」「全国障害者芸術・文化祭」は、各都道府県が持ち回りとなって毎年行われる、文化庁主催の県民参加型イベント。毎年各県は、文化発信や観光客の集客を目的に、伝統芸能、美術、音楽、生活文化といった様々なジャンルの文化イベントを展開している。
2018年度に会場となる大分県では、これまで「in BEPPU」や「国東半島芸術祭」など個性的なアートプロジェクトを県内で企画してきた「NPO法人 BEPPU PROJECT」代表理事の山出淳也が、市町村事業アドバイザーに就任。全体のプロデュースを行う。
イベント全体を総じて題された「おおいた大茶会」では、大分県を地理的特徴にもとづいた5エリアにわけ、関連したリーディング事業や市民プロジェクトを行っていく。空港や港があり県の玄関口として機能する大分、別府、由布を「出会いの場」に。いくつもの川に囲まれた景観や文化を形成している中津、日田、九重、玖珠を「水の森」にゾーニング。また、国東半島の山と谷が豊かな神仏習合文化を生んだ豊後高田、杵築、宇佐、国東、姫島、日出を「祈りの谷」に、九州の中心に位置し山々に囲まれた環境で多くのアーティストを育んだ竹田、豊後大野を「耕す里」に。そして、豊後水道に面し、盛んな漁業と文化の多様性を生んだ佐伯、臼杵、津久見は「豊かな浦」として、それぞれ設定した。大分県が内包するこれらの特徴を周遊しながら、食や宿泊、交流なども含めた様々なかたちで来場客に体験してもらう「カルチャーツーリズム」を提案。おおいた大茶会後も県の財産として残っていくことを目指す。
「おおいた大茶会」という名称に、「誰でも参加できる開かれたもの」という意味合いを込めたと語る山出。全国で初の取り組みとして全市町村で障害者アートイベントが開催されるが、今回、「国民文化祭」と「全国障害者芸術・文化祭」とこれまで分けて開催されていた枠組みが「おおいた大茶会」として括られることで、両者の境界線を曖昧にする効果を生んでいる。
また、各地のリーディング事業として、髙橋匡太、大巻伸嗣、graf、チームラボを招聘したアートプロジェクトが企画。九州北部豪雨によって被害を受けた日田市では、Rhizomatiks Architectureによる災害復興イベントが開催される。なかでも注目したいのが、別府で「in BEPPU」として開催されるアニッシュ・カプーアの個展だ。カプーアはここで新作を含む複数の作品を展示するという。それぞれのアーティストが、表情豊かな地形を持つ大分とどのように呼応するのか、期待される。
偏りすぎた進歩主義に警鐘が鳴らされ、地震や水害といった災害が後を絶たないなか、「自然といかに共生するか」という問いは、今後ますます複層化していくことが予想される。大分の豊かな地形を巡り、そこで育まれた文化や人にふれる旅が、訪れた人にどのように刻まれるのか。10月の開催が待たれる。
なお、7月下旬には、おおいた大茶会の関連書籍が発売。芸術人類学者の石倉敏明を監修に迎え、地形や神話、歴史といった土地の記憶の上に、どのようにして県の魅力が現在成り立っているのかを、問い直す一冊となる。カルチャーツーリズムを楽しむうえで、欠かせない本となるだろう。