飯沼珠実は、建築やその周囲の空間を写真をとおしてとらえ、プリントやアーティストブックにその様相を表現してきた。2008年から13年まで、ドイツ・ライプツィヒに在住。10年度にポーラ美術振興財団在外研修員となり、ポーラ美術振興財団が助成してきた若手芸術家のひとりだ。
飯沼は建築を、無機質な物体ではなく、建築家をはじめその建設に携わった人々や、その内部や周囲を往来した人々の記憶が降り積もった、温度のある存在として考える。建造物の構造的な美しさに加えて、「建築」に漂う空気や記憶までをも表現した、洗練された写真作品を制作してきた。
本展では、飯沼が過去に撮影した作品に加え、強羅や仙石原といった箱根の地を新たに撮り下ろした新作7点を含む17点を公開。温泉地、観光地としての古い歴史を持つ箱根には、数多くのホテルや旅館、美術館などの建造物が建てられてきた。そしてそれらが佇む広大で豊かな森のなかには、湯けむりや、木々の間から差し込む光の線、地中の水分が柱状に凍った霜柱といった、一時的に発生しては儚く消える、自然のなかの建築的な構造体もまた姿を現わす。
国内外の都市を撮影してきた飯沼が、「建築」の息づく空間と時間をとらえた作品を、実際に箱根の地で体感したい。