湖面に浮かぶ10万平米の布や、連続制作時間96時間の絵画、2万1120メートルものテープでできた空間......これらはすべてアーティストたちによって実際に実現された作品だ。六本木の21_21 DESIGN SIGHTで6月23日から始まる、その名も「そこまでやるか 壮大なプロジェクト展」では、このような想像を絶する壮大な8つのプロジェクトが紹介される。
本展をディレクションしたのは、建築やアートの分野でライターとして活動する青野尚子。きっかけは「2016年にイタリアのイセオ湖で行われたクリストとジャンヌ=クロードによる《フローティング・ピアーズ》だった」という。同作は、これまで主に布によって景観を買える作品を多数手がけてきたクリストとジャンヌ=クロードが、湖面に3キロメートルにわたる黄色の布を浮かべたもので、人々が実際にその上を歩くことができることで大きな注目を集めた。
これを出発点とする本展では、「8組のスケールが大きい、あるいは時間がかかる、途方もないことにチャレンジしているアーティストたち」が一堂に会する。「そこには経済効率とは違う価値基準、自由さがある、そういう壮大さを身体で感じてほしい。見終わったあとに、自分のなかで何かが変わる。そういう展覧会」だと青野は語る。
上述のクリストとジャンヌ=クロードは、《フローティング・ピアーズ》のドキュメント映像を世界初公開するほか、1977年に始まり、現在も進行中の「マスタバ、アラブ首長国連邦のプロジェクト」のためのドローイングを展示。
また、舞台芸術やインダストリアルデザイン、コンセプチュアル・アートの領域で活動しているアーティスト集団「ヌーメン/フォー・ユース」は、2万メートルもの透明なテープを使い、空中に浮かぶ通路《テープ・トウキョウ02》を出現させた。来館者は実際に空間の中に入ることもできる。
その土地の土や、自然素材を使い「泥絵」を描く淺井裕介は、これまで各地で採取した土に東京ミッドタウン内の土を加え、昨年ヴァンジ彫刻庭園美術館(静岡)で発表した泥絵具による作品を再構成。6日間かけて描いたという作品は壁一面に広がり、躍動感豊かな生き物たちと出会うことができる。
今年、21_21 DESIGN SIGHT内に新たに誕生した「GALLERY 3」では、西野達が新作を発表。これまで、シンガポールのマーライオンを使ったホテルプロジェクト「The Merlion Hotel」(2011)をはじめ、実現が難しいとされる作品を次々に成し遂げてきた西野。本展では、GALLERY 3をまるごとカプセルホテルに変えるという日本の美術館では前代未聞のプロジェクト《カプセルホテル21》に挑戦した。西野はこの新作についてこう語る。「(私の作品には)副題として、実現不可能性99パーセントというのがついていますが、実現不可能とされる作品をつくってきたと思います。今回もそのなかのひとつ。日本は世界で一番こういうこと(ホテルプロジェクト)がやりにくい。アートに理解のない、規制が厳しい国ですが、そこでこういう難しいことがやりたかった」。このホテルにはシャワーもついており、会期中には実際に泊まれる日も設けられるという。
このほか高さ45メートルの教会を中国山東省で進行中の建築家・石上純也や、人の錯覚を利用したサイトスペシフィックな作品を生み出すジョルジュ・ルースなども参加。壮大なビジョンを作品化してきたアーティストたちの発想に触れることができる機会だ。