対談 加藤泉×石倉敏明:絵を描くことで幸福になってきた
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バンド活動も重要な表現形態

石倉 第2会場の展示室「C」は、大空間にたくさんの作品が並ぶインスタレーションです。加藤さんの作品の中に、自分が入り込んでしまったかのような感覚に陥ります。布を素材にした作品を固定している石にも「人がた」の顔が描かれていたりと、細部まで見どころが詰まっていて、世界中で展示をこなしてきた経験値の高さを感じます。

展示風景より
Photo by Yusuke Sato
Courtesy of Iwami Art Museum
©︎2025 Izumi Kato

川西 インスタレーションをつくる際、事前に何を置くかは決めてありましたが、配置については現場で加藤さんから「これはここ」「あっちとこっちを入れ替えよう」と次々ご提案いただいてできていきました。ご自身の作品を絵具の代わりのようにして、まさに空間に絵を描いていくかのようでした。結果、出来上がったインスタレーションは、どこに立ってどの角度から眺めても見応えあるものに仕上がっていて感嘆しました。

加藤 絵の中にたくさんレイヤーがあるのと同じように、三次元の空間もどんどんレイヤーを重ねていくとおもしろくなります。実際の場所に立てば、迷うことなくどんどん決めて展示していくことはできます。モノを置けばいいだけだから、絵を描くよりむしろ簡単です。

石倉 加藤さんの彫刻は転がったり、立てかけられていることも多いのですが、ここでは自立しているものが登場します。ただし二本足ではなく、三本足になっています。

加藤 あれはバリのケチャダンスに想を得たものです。ダンスしているのだから、立ってくれないと困る。でも二本足だとバランスがとれなくて、じゃあ尻尾みたいなものを付けて立たせようかとなりました。

石倉 最後の展示室「A」では、加藤さんの異なる側面が見られます。企業とのコラボレーションなどによる様々なプロダクトが出てきたり、いまも続けておられるバンド活動の映像もあります。

展示風景より
Photo by Yusuke Sato
Courtesy of Iwami Art Museum
©︎2025 Izumi Kato

加藤 大学生のころからドラムをやっていて、大学時代の仲間と組んでいる「HAKAIDERS」と、アーティストバンド「THE TETORAPOTZ」のふたつで活動しています。8月には、美術館からも近い益田市街のライブハウスで「HAKAIDERS」、美術館内で「THE TETORAPOTZ」のライブをします。

川西 音楽は加藤さんの表現活動の重要な一面ですので、ふたつのバンドのライブを個展会期中に開催していただけるのはうれしいかぎりです。展覧会と併せて、ライブも現地で聴いていただければ、自信を持ってこの夏、「益田に来れば加藤泉のすべてがわかります!」と申し上げられます。

石倉 改めて今展全体を思い返すと、「人がた」というものの存在感が強く印象に残ります。見れば見るほど謎が深まると同時に、なんだか希望も湧いてきます。人間はこれからもっと進化できそうだとか、ほかの種とつながっていく可能性があるんじゃないかと思えてきます。加藤さんの作品もこれから10年、20年、30年と変化し続けていくのだろうと感じます。ご自身ではどうなっていくと考えておられますか。

加藤 どうなるんでしょう、僕にも全然わからないです(笑)。作品をつくりはじめて現時点で40年くらい経っていますけど、「40年休まずよくやった、ずいぶん遠くまできたな」というのと「40年やって、まだこんなものか」という気持ち、どちらもありますしね。これからもあれこれ変わっていくのでしょうけど、考えていることはいつも同じで、いい作品をつくりたいというただそれだけです。「人がた」を用いずにいいものができるなら、ためらいなく「人がた」を使うのをやめるでしょう。いまのところ「人がた」でつくるほうが、たくさんの情報を入れ込みやすいからそうしていますが、そのあたりも変化していくのかもしれない。いずれにせよ、新しいことにチャレンジするというよりは、続けていくことに重きを置いて、これからもやっていくのだろうとは思っています。

左から、川西由里、加藤泉、石倉敏明