2017.1.21

上田麗奈と藤ちょこ先生のデジタルペイント講座 ⑪人物編

初心者にもやさしい直感的な操作が可能な多機能・低価格のペイントソフトとして、多くのクリエイターから支持を得ているペイントソフト「openCanvas」。本連載では、声優の上田麗奈が、同ソフトのメインアートワークを手がけた人気イラストレーター・藤ちょこさんにその魅力を教わりながら、オリジナルのデジタルイラストを制作。第6回以降、写真をもとに描いてきた作品の連載も、残すところあと2回。今回は人物の描写に挑戦です。[PR]

「openCanvas」でデジタルペイントに挑戦する声優の上田麗奈
前へ
次へ

ちょっとしたコツで、デジタルにも人肌のあたたかみ

2016年12月21日に歌手デビューを果たし、ますます活動の幅を広げている声優・上田麗奈。前回(第10回)は、柵や窓ガラス、植物など、背景として描かれたそれぞれ異なる質感のものを、藤ちょこ先生のアドバイスを参考に描き分けていきました。今回は中央にいる人物(モデルは上田)の肌や髪、洋服の質感を描いていきます。

藤ちょこ(以下、藤):では、塗っていきましょう。まず、資料ウインドウを拡大します。写真の右腕の部分がわかりやすいのですが、光が当たっている部分と影になっている部分がありますよね? 光が入ってきている側は明るく、影になる部分は暗く塗っていきます。肌のベースの色よりやや濃いめの色で、影の部分を塗ってください。ブラシオプションのウインドウにある「濃度」で、さらに調整ができます。

上田麗奈(以下、上田):「濃度」というのがイマイチわからないのですが......。

開発チーム(以下、開発):「濃度」は、ブラシの濃度を表しています。数字が低くなるほど、透明になっていきます。

上田:なるほど〜。[手や腕に影を描き入れていく]

写真の肌色に近づけて、右腕、左手の甲に影を描いていく(画像右)

上田:こんな感じでどうでしょう?

藤:あとは、少し濃い色でポイント的に細かい影をキュッと入れるといいです。例えば、右手の指の関節ですね。

上田:ふーん、こんなに細かく描きこむんですね。

細かく影を描き込むことで、5本の指がはっきりと分かれて見えてくる

藤:はい。あとは線と線の際(きわ)の部分。ここをなぞるように線を入れていくと、作品全体の仕上がりの丁寧さにつながっていきます。

上田:へー。これだけでも絵の雰囲気が締まるものなんですね。

藤:人物の血色をよく見せるために、指先に赤みを加えるのもいいと思います。

開発:末端冷え性キャラではないんですね(笑)。

上田:あ、私自身は、どちらかというと末端冷え性です(笑)。

藤:この写真を撮影したのは夏でしたよね(笑)。いま作業しているレイヤーの上に新規レイヤーを作成してください。指先にふわっと色を入れたいときは、肌のレイヤーにクリッピングしてからエアブラシを使いましょう。

上田:久々のクリッピング! 第3回で教えていただきましたね。

開発:ほかには、どんな部分に赤みを加えるといいんですか?

藤:肘とかほっぺですね。

上田:ほっぺは......このあたり?[顔面に赤みを入れる]

肌の中に赤みを足すことで、健康的で血色のいい印象が生まれる。作業中の画面は極端な着色に見えてしまうが、ここからレイヤーの濃度を調整していく

上田:......高熱ですね。

一同:(笑)

藤:このままだと風邪を引いていそうなので(笑)、レイヤーの濃度を全体的に下げましょう。そうですね、10%くらいで。これで血色がよくなりました。

上田:クリッピングのおかげではみ出さない! よかった!

藤:ここで、一度ファイルを保存しておきましょう。

髪の毛のツヤやサラサラ感を出す

作業を進めていく上田と藤ちょこ先生。前作(第2〜5回)の「いもちゃん」とはまったく異なる雰囲気の作品が仕上がっていきます。

藤:では、次は髪の部分に移りましょう。写真に合わせて、黒に近い色で頭頂部から髪の毛の流れを描いていきます。最初(第1回)に描いたライオンのたてがみと似ていますね。上田さん、こういう作業は好きですよね。

上田:はい。でも、私、すぐ飽きちゃうからなぁ(笑)。ライオン、懐かしいですね〜。

開発:もうそろそろ、初回の収録から1年が経ちますね。

上田:1年......早いなぁ......。[髪の毛の線を入れていく]

bt:連載を続けてきて、おかげさまでたくさんの反響をいただくようになりました!

藤:継続は力なりなんですね〜(しみじみ)。

上田お得意の、点描や線描でボリュームを出していく作業。細い線を重ねることで、徐々に、風に吹かれている髮の様子が浮かび上がってきた

藤:いいツヤの感じが出てきました。あとは、髪全体の立体感を出すために、いま描いた髪のレイヤーを複製して、大きなエアブラシで明るい部分と暗い部分を描いて、レイヤーの濃度で調整します。

上田:顔の正面側が明るい色〜。[前髪に明るい色を入れる]反対側が暗い色〜。[後頭部のほうに暗い色を入れる]

藤:そうですね。透明度は30%くらいがちょうどよさそうですね。作業が終わったら、最初にあった髪の毛のレイヤーと統合してください。

上田:えいや![2つのレイヤーが結合される]

光源側(顔側の髮)を明るくすることで、頭部全体が丸みを帯び、前髪やおでこが立体的に見える

藤:さらに髪の毛のツヤ感を出します。エンジェルリングと呼ばれる髪のツヤを、鉛筆ツールで入れていきます。白っぽい細めの線で、頭部をめぐるように描きましょう。また、濃いめの色で何本か足すと、よりサラサラ感が増します。

上田:なるほど〜。

藤:一度、表示を縮小して見てみましょう。俯瞰してみると、作業の進行具合がよくわかります。

細部を描きこんだあとは、画面表示の比率をもとに戻して全体のバランスを確認することも必要。小さな影や細い髪の描写が、立体感に貢献していることがわかる

色彩遠近法を活用して、さらに奥行きのある表現を

藤:では、服の部分も描いていきましょう。いまのところ暖色系でまとまっているので、紫がかった灰色など、寒色系で服の陰影をつけたほうが、画面にメリハリがつくと思います。ペン先の太さを変えながら、立体感を出しつつ服のしわを描いていき、色を塗っていってください。

上田:はい。[ワンピースに陰影をつけていく]

資料ウインドウを横に並べての作業。実際の服には花柄の模様が入っているため、色彩の情報に惑わされてしまいがちだが、物の形と光の関係をきちんと把握することが大事

開発:すごいですよねー。「影を描いてください」といわれても、正直、どこに影を描いていいのかって、なかなかわからないものですよ。

藤:よく物を観察することは重要ですね。もととなる写真の明るさやコントラストを替えると、どこに影がかかっているのか、わかりやすくなりますよ。

上田:観察する力って大事ですよね。絵に関しては必ずしもわかっていないんですけど、自分の仕事に置き換えてみると、わかる気がします。声優は、まず細かいニュアンスを聞き分けないといけないし、読解力もないといけない。

白い洋服にうっすら虹色のような光が入ることで、立体感はもちろん、作者の世界観が生まれてくる

藤:白いワンピースに影が1色だけだとちょっと味気ないので、もう少し色を加えてみましょう。いわゆる「色彩遠近法」を活用します。暖色系は手前に、寒色系は奥に見えるという性質があるので、手前にある部分に赤い色を、スカートがうしろに回り込んでいるほうに青い色を、ふわっとブラシでのせると、立体感が出て服の表現の深みも増します。

開発:理屈としては理解できても、実感としては難しいですね。白い服を表現するのに、さらっと赤や青の色をのせるっていう感覚にはなかなかならない。

藤:数をこなしていけば自然と身についていくものです。デジタルは何度でもやり直せることが強みなので、思い切っていろいろなことを試してみるのがよいと思います。あとは、先ほどと同じような線の際(きわ)ですね。手にしているスマートフォンは、背景の花と同じような赤だと、画面が締まると思います。

上田:赤にしましょう!

藤:影になっている面と光が当たっている面との際にハイライトの白い点を入れると、スマートフォンの質感が出ます。

実際のスマートフォンを見ながら、表面のテカリ具合などを描いていく

上田:できました!

藤:だいぶ作品ができ上がってきましたね。次回は最後の仕上げです。

上田:いよいよ最終回! よろしくお願いします。

第11回の講座内容を上田麗奈が動画でおさらい!

第11回「人物編」のイベントファイルを早回しで再生しながら、上田麗奈と藤ちょこ先生が、おさらいします。

PROFILE

うえだ・れいな 富山県生まれ。声優。第5回81オーディション特別賞・小学館賞、第9回声優アワード新人女優賞受賞。アニメ「Dimension W」(2016年、百合崎ミラ役)などに出演。2016年12月21日にミニアルバム「RefRain」にて歌手デビュー。特技は水彩画・ボールペン画、趣味は掃除。

@fuzichocohttp://fuzichoco.com
ペイントソフト openCanvas パッケージ版