パイロットモデルになりうるか?
再生委員会が実施したアンケート(香川県内の500人対象)では、「県は、民間事業者に積極的に協力するべきだと思う」が37%、「県は、解体手続きをいったん保留し、協議には応じるべるべきだと思う」が36%となっており、7割以上が即時解体に後ろ向きだ。また香川県庁内も一枚岩ではなく、解体に疑問を持つ職員は少なくないという。
こうしたなか、丹下健三の息子である丹下憲孝は、この建築に対して「父・丹下健三が香川の自然や環境に寄り添いながら、構造と造形の新たな挑戦を行った、私にとってもかけがえのない建築です。建築が建築としての役割を超え、時代や地域の記憶を内包する存在になり得ることを旧香川県立体育館は体現しています」との言葉を寄せ、保存・再生に対する理解を示す。

また先の松隈も、今回の保存の動きについて次のように語っている。「行政が手に負えない建築を民間が支援する道筋の模索が始まっている。その実例を作る先駆的な取り組みになりうるという意味で画期的だ。壊すか残すかではなく、グラデーションを模索する大事な機会。香川県は戦後の庁舎建築を見事なかたちで耐震改修し、それが重要文化財となった。香川県は『建築文化県』であり、ここでこの建築を壊してしまうと、そのプライドを傷つけるのではないか。県には英断を期待したい」。
県の財産を民間が買い取り、それを活用することは県の財政、そして地域活性化にもプラスとなるだろう。加えて、丹下が同時期・同時代に生み出した国立代々木競技場は世界遺産登録の機運が高まりを見せており、旧香川県立体育館も本来は「同様の評価と保護を受けるに値するもの」(Martino Stierli、ニューヨーク近代美術館 The Philip Johnson Chief Curator of Architecture and Design)だ。
しかしながら、香川県は再生委員会側の具体的な活用方法を聞き入れることなく、2027年度までに解体工事を完了させる方向に進んでいる。再生委員会の委員長を務める建築家・長田慶太はこう語る。「オンライン署名も2万人を越え、世論調査でも72%の県民が再生に前向きななかで、資料も見ずに、公告を出したことは、あまりにも誠意を感じられず、知事、議会も含め、非常に残念に思う。今後は、 チーム内の皆のスタンスを考慮しながら、入札に係るあらゆる可能性を模索していきたいと思っております」。



















