カニエ・ナハ『メノト』(私家版、2021)『メノト ヴィネット』(私家版、2022)『メノト グリッド』(私家版、2024)
美月は美術館の監視の仕事をしている。じきに一世紀になる。
百年も監視の仕事をしていると、何年かに一度、展示替えがあって、
二十一世紀や二十二世紀を代表するだれそれの絵画だったり彫刻だったりがやってきても
最初の一、二日こそものめずらしくおもい、観客が途絶えると作品の前へやってきて、
しげしげとみつめて、ふんふん、などと頷いてみても、じきに飽きてしまって
はやくひとがやってこないかと、そわそわしている。
──『メノト ヴィネット』6-7頁、「二木美月 04.09.2022」より
石塚時枝、浦川音子、田村珠羅、二木美月、三瓶笑理。この人たちは「名前」であり 『メノト』に所収される「詩の題」である。乳母(めのと)、女の都(めのと)、を思わせるこの詩集は、詩、造本、製本、すべて著者の手によってつくられる。カニエ・ナハ(1980〜、神奈川県生まれ)はこれまで毎年、手製本によって詩集を出してきたが、今回挙げた3作は「メノト」シリーズとして題材が引き継がれている。2作目からは姉岸真千、辻百合亜という題が加わり、「グリッド」では、姉岸/辻が、それぞれ横書き/縦書きで別々に中綴じされたものが1冊にまとめられている。書かれる詩は人物描写ではなく、名付けられた名の持つ文字と音の意味から紡がれていく。
詩を書き、本にするまでを本人がすべて手がけることは、出版され著者の手元を離れていく現代の本と逆行して、言葉がピタッと書き手にくっついている。そのぶん手に入れるのは困難だが、本を手に入れることは本人と出会うことと同義でもあり、まずはカニエさんに会ってみてほしい。