*1──2020年3月29日「朝日新聞」朝刊3面参照。
*2──2020年4月1日「朝日新聞」夕刊1面。
*3──2020年3月29日「朝日新聞」朝刊29面。
*4──なお、同法62条1項は「損失を補償」と規定し、同法63条1項は「損害を補償」と規定するが、被害対象(被害法益)が異なる(前者は財産的損失、後者は声明・身体・健康)からである。西埜章『損失補償法コンメンタール』(勁草書房、2018年)(以下「西埜・損失補償法コンメ」という)36頁参照。
*5──芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法 第七版』(岩波書店、2019年)(以下「芦部・憲法」という)248頁、塩野宏『行政法Ⅱ[第六版] 行政救済法』(有斐閣、2019年)(以下「塩野・行政法Ⅱ」という)383~384頁、宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』(有斐閣、2018年)(以下「宇賀・概説Ⅱ」という)503頁、西埜・損失補償法コンメ55頁参照。判例(最大判昭和43年11月27日刑集22巻12号1402頁・河川附近地制限令事件(名取川事件))は、刑事事件の傍論ではあるが、憲法29条3項に基づき、直接損失補償を請求する余地があることを認めている。なお、憲法上補償が必要であるであるのに特別の犠牲を課す法律に補償規定がない場合には当該規定は違憲無効であるとする違憲無効説がかつては有力であった(宇賀・概説Ⅱ503頁)が,(直接)請求権発生説が通説・判例となっている現在においては,違憲無効説を主張することの意義は薄いのではないか(西埜・損失補償法コンメ55頁)と考えられる。
*6──なお、憲法29条3項から直接発生する損失補償請求権を裁判上実現するには、実質的当事者訴訟としての給付訴訟を提起することになる(塩野・行政法Ⅱ391頁)。そのため、仮に今後、報道されているとおり、所得減の世帯に30万円の現金給付等がなされたとしても、その対象とならない世帯の者(2020年4月3日「東京新聞」夕刊一面によると、「20万円」の場合には全5800万世帯のうち約1000万世帯が現金給付の対象となる見通しとのことである)、あるいはこのような現金給付やその他の現金給付(4月3日夜の時点で個人事業主に最大100万円、中小企業に最大200万円の現金給付の検討がなされている旨の報道がある)等を仮に受けられたとしても、その給付金額では不足するという者や事業者は、個別に上記の給付訴訟を提起することが可能である。
*7──芦部・憲法247頁参照。なお、「公共のために」ならない、すなわち公益ないし社会全体の利益に役立たない財産権制約は違憲となる(長谷部恭男『憲法講話―24の入門講義』(有斐閣、2020年)155頁参照)。
*8──芦部・憲法247頁参照。松井茂記『LAW IN CONTEXT 憲法 法律問題を読み解く35の事例』(有斐閣、2010年)(以下「松井・LAW IN CONTEXT 憲法」という)178~179頁も、憲法29条3項は「典型的には土地収用のように土地所有権それ自体を公共のために剝奪された場合に、正当な補償の支払いを命じたものである。(中略)しかし、29条3項の規定は、土地利用制限のように、土地所有権をすべて剝奪されたわけではないが、所有権を制限された場合にも適用されると考えられる。」とする。
*9──松井・LAW IN CONTEXT 憲法179頁参照。
*10──藤田宙靖『行政法総論』(青林書院、2013年)582頁は、損失補償は「公権力の行使によって生じた損失をいう」とする。しかし、国家賠償法1条1項の「公権力の行使」についてではあるが、国や公共団体が行う情報管理行為(情報の公表行為等)も公権力の行使と捉えられており(宇賀克也=小幡純子編著『条解 国家賠償法』(弘文堂,2019年)(以下「宇賀=小幡・条解国賠法」という」)67頁〔大橋洋一〕)、また、公権力性を要しないとする立場もある(西埜・損失補償法コンメ17頁参照)。なお、松井・LAW IN CONTEXT 憲法179頁の事例は、「停留措置及び強制的入院によって仕事ができず、収入が減ってしまったことに対する損失補償」を求めるものである。
*11──本稿では、「情報」とは記号、符号、文字などを使って表現された文章(一般にはデータとよばれる)が持っている意味や内容のことを意味するものとする。藤原靜雄「情報と行政法」法学教室432号(2016年)8頁参照。
*12──山本隆司「事故・インシデント情報の収集・分析・公表に関する行政法上の問題(下)」ジュリスト1311号(2006年)183~184頁参照。なお、大塚直「未然防時原則,予防原則・予防的アプローチ(5)―今後の課題(1)」法学教室289号(2004年)107頁注8)は、国民への情報提供としての公表行為の違法性等が争われた大阪O-157集団食中毒損害賠償事件(東京高判平成15年5月21日判例時報1835号77頁。詳しくは「2 国家賠償請求の認否」のところで説明する。)に関して「憲法29条3項に基づく損失補償の認められる余地はあろう。」とする。なお、2020年4月2日「毎日新聞」朝刊8面では、「舞踊〔(引用者注:バレエ)〕業界はどこも、入場料頼みの自転車操業。中止は即破産を意味する」と興行主が語ったことなどが報じられている。
*13──塩野・行政法Ⅱ385頁,松井・LAW IN CONTEXT 憲法179頁,芦部・憲法247頁参照。
*14──東京地判昭和57年5月31日行集33巻5号1138頁。
*15──西埜・損失補償法コンメ88頁参照。
*16──宇賀・概説Ⅱ505頁等参照。
*17──宇賀・概説Ⅱ505頁参照。
*18──渋谷秀樹=赤坂正浩『憲法1 人権〔第7版〕』(有斐閣、2019年)110頁〔赤坂〕参照。
*19──2020年3月29日「朝日新聞」朝刊1面。
*20──2020年3月29日「朝日新聞」朝刊7面参照。なお、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が出され、ライブハウスや映画館、劇場、寄席、野球場等が営業停止の要請・指示に従い営業をしなくなった場合、施設・企業の休業手当の法的義務はないとの見解を厚労省(同省監督課)が示したため、生活困窮に陥る市民がさらに多く出るおそれがある(2020年4月3日「東京新聞」朝刊1面参照)。
*21──宇賀・概説Ⅱ506頁。
*22──最二小判昭和58年2月18日民集37巻1号59頁・地下ガソリンタンク移設事件、最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁・奈良県ため池条例事件等。
*23──その他の法令の規定に関しては、さしあたり西埜・損失補償法コンメ20〜21頁。
*24──西埜・損失補償法コンメ19〜20頁、983頁以下参照。
*25──北村和生「演習」法学教室347号(2009年)112~113頁(113頁)は、情報の公表行為につき、「実際には、『特別な犠牲』にあたるかといった損失補償の要件を充足する可能性は低く、個別の立法がない限りは損失補償による救済も困難と言えるであろう」とする。
*26──松井・LAW IN CONTEXT 憲法179頁、大塚・前掲注(12)107頁注8)参照。なお、損失補償が必要であるとして、ほかにも、(A)損失補償(「正当な補償」)の内容、(B)損失補償の時期等の問題(論点)があるが、本稿では検討対象とはしなかった。(A)については、芦部・憲法249頁以下、塩野・行政法Ⅱ391頁以下、宇賀・概説Ⅱ516頁以下、西埜・損失補償法コンメ97頁以下を、(B)については、宇賀・概説Ⅱ531頁以下、西埜・損失補償法コンメ199頁以下をそれぞれ参照されたい。なお、(A)につき、財産権の制限に対する補償は、財産権の制限に伴い「通常生ずる損失」(通損)の完全な補償でなければならないものと解されるだろう(西埜・損失補償法コンメ141頁参照)が、この通損の範囲をどのように確定すべきかは簡単な問題ではない(山本・前掲注(12)184頁参照)。
*27──ちなみに、前掲大阪O-157集団食中毒損害賠償事件では、控訴審段階から、憲法29条3項に基づく損失補償請求の主張が追加されたが、結局、不適法却下となっており、この主張についての実体判断はなされていない。宇賀克也「判批」(東京高判平成15年5月21日解説)廣瀬久和=河上正二編『消費者法判例百選』(有斐閣、2010年)174~175頁(175頁)参照。
*28──「損害」要件(や相当因果関係要件(「によつて」))も問題となるが、本稿では検討対象とはしなかった。同要件については、政府の情報提供行為に関する前掲大阪O-157集団食中毒損害賠償事件の争点(3)に対する判断(判例時報1835頁87頁以下)、宇賀=小幡・条解国賠法145頁〔原田大樹〕、西埜章『国家賠償法コンメンタール 第2版』(勁草書房、2014年)661頁以下を参照されたい。また、「過失」要件も一応問題になるが、例えば、政府の情報提供行為に関する前掲大阪O-157集団食中毒損害賠償事件では、違法性が認められば過失も認められる関係にあるものと判断されたと考えられることから、両要件は実質的には一元的に判断される(なお、違法性要件から判断される場合が多いといえよう)。なお、「公権力の行使」の要件も一応問題になりうるだろうが、国や公共団体が行う情報管理行為(情報の公表行為等)も公権力の行使と捉えられている(宇賀=小幡・条解国賠法67頁〔大橋洋一〕)ため、同要件を満たすものといえる。その他の要件については、塩野・行政法Ⅱ320頁以下、宇賀・概説Ⅱ418頁以下を参照されたい。
*29──芝池義一『行政法読本〔第4版〕』(有斐閣、平成28年)156頁。なお、中原茂樹『基本行政法[第3版]』(日本評論社、2018年)(以下「中原・基本行政法」という)47頁は、「公表については、①情報提供による国民の保護を主目的とするものと、②行政上の義務違反に対する制裁を主目的とするものとを区別する必要がある」とする。
*30──中原・基本行政法47頁。
*31──村上裕章「集団食中毒の発生と情報提供のあり方―O-157東京訴訟控訴審判決を契機として」ジュリスト1258号(2003年)115頁。
*32──宇賀克也「行政による食品安全に関する情報提供と国の責任―東京高裁平成15年5月21日判決」同『情報公開・オープンデータ・公文書管理』(有斐閣、2019年)345頁(初出、宇賀克也「判批」(本判決解説)廣瀬久和=河上正二編『消費者法判例百選』(有斐閣、2010年)174~175頁(175頁))。また、大阪O-157集団食中毒損害賠償事件判決を比例原則の適用と読む可能性との関係(その可能性の検討)に関しては、土井翼「O-157集団食中毒原因公表事件」法学教室468号(2019年)13頁以下。なお、本判決(東京高判平成15年5月21日)は、政府広報についての事案ではあるが、政府の言論の法理(蟻川恒正「政府の言論の法理」駒村圭吾=鈴木秀美編『表現の自由 Ⅰ―状況へ』(尚学社、2011年)417頁(437~438頁)参照)によって政府の法的責任を緩和しようとしたものとはいえないだろう。
*33──判例時報1835号80頁(本判決匿名解説三(8))参照。なお、市民の不安を解消する目的もあったと考える余地もあるだろうが、同目的については、公表内容を十分に検証する必要がある(瀬川信久「判批」(本判決の原審判決等解説)判例タイムズ1107号74頁参照)。
*34──横田光平「判批」(本判決解説)ジュリスト1269号(2004年)45頁・解説3参照。
*35──村上・前掲注(31)115~116頁・Ⅳの4(1)参照。
*36──2020年3月31日「朝日新聞」朝刊1面。
*37──2020年4月1日「朝日新聞」朝刊28面参照。なお、日本国内の感染状況につき、首相自身も3日の参議院本会議で「東京をはじめとして都市部を中心に感染者数が急増し、感染経路が不明な感染者も増加している」と述べている(2020年4月3日読売新聞夕刊1面参照)など、感染経路が不明な感染者は多数存在し、また、自分の勤務する会社の会議室や社内食堂等で感染したと考えていても様々な事情から申告をしない感染者もいると考えられる。
*38──藤原・前掲注(11)12頁参照。
*39──憲法16条は、「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利」を有すると定め、さらに「何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない」と規定している。
*40──樋口陽一ほか『憲法を学問する』(有斐閣、2019年)169頁以下〔蟻川恒正〕、平裕介「公道で選挙演説を聴く市民の政治的言論自由と『現在』の市民の『不断の努力』」LIBRA19巻10号(2019年)23頁参照。弁護士法1条の弁護士の使命に照らし、弁護士が実際に声を上げることも重要である。
*41──情報提供としての公表は、普通は「特定の者」(行政手続法2条6号)に対するものではなく、国民一般(市民)や住民らへの広報といえることから、同号に定義される行政指導(「相手方市民に情報を提供する(中略)助成的行政指導」(大橋洋一『行政法Ⅰ 現代行政過程論[第4版]』(有斐閣、2019年)273頁))とは異なるものと解される。そのため、行政手続法(や行政手続条例)における行政指導の規定(その内容については、さしあたり宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』(有斐閣、2020年)437頁以下を参照されたい。)を活用した法的救済は難しいものと考えられる。
*42──なお、政府は、4月1日、個別に損失を補償することは難しいとの認識を示しつつも(2020年4月1日「朝日新聞」夕刊1面参照)、一世帯に2枚ずつ布マスクを配布すると表明した(2020年4月2日毎日新聞朝刊1面参照)が、費用対効果等との関係で、あるいは他国での政策と比較して、エイプリル・フール特有の報道であってほしいと感じた市民は多かったのではないだろうか。「命を守る行動をとりましょう」と呼びかけるのであれば、補償もなく休めない市民の生活も十分に考慮すべきであろう(2020年4月3日「毎日新聞」朝刊27面「コロナ 歌舞伎町悲鳴」等参照)。
*43──文化芸術活動の自由を守り抜くために訴訟を提起した例として、映画『宮本から君へ』助成金不交付決定処分取消請求事件(東京地方裁判所民事第51部に係属中、令和元年(行ウ)第634号)が挙げられる。なお、同事件は、新聞や雑誌等のメディアで報道されている(2019年12月8日「朝日新聞」朝刊31面、『キネマ旬報』1835号(2020年)122~123頁)。
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