2020年は次々と新たな美術館が誕生する年となる。そこでここでは、とくに注目したい美術館4館を開館順に紹介。その特徴とともにお届けする。
展示室も拡大。アーティゾン美術館(1月18日開館)
まず、年明け早々の1月18日に開館を迎えるのが、アーティゾン美術館だ。同館は、ブリヂストン美術館を前身とする美術館で、2024年6月にグランドオープン予定の開発街区「京橋彩区」内に竣工した「ミュージアムタワー京橋」の低層部(1~6階部分)に位置する。
延べ床面積はブリヂストン美術館時代の2.3倍となる6715平米で、うち展示室の総面積は2100平米を占める。館内は、ミュージアムカフェやショップ、レクチャールームなどが入る1〜3階部分の「フリーゾーン」と、4~6階の「展示室ゾーン」で構成。展示室のなかには、古美術などのための黒壁の部屋などもある。
開館記念展は、同館のコレクションで構成された「見えてくる光景 コレクションの現在地」(〜3月31日)。展示は第1部「アートをひろげる」と第2部「アートをさぐる」からなり、新収蔵作品から31点が初公開される。なお同館ではこの開館記念展より日時指定予約制を導入している。
館長は青木淳。京都市京セラ美術館(3月21日開館)
3月には、待望のリニューアルオープンを迎える京都市京セラ美術館が開館する。同館は、1933年に開館した京都市美術館を大幅改修したもので、ネーミングライツを導入し、2019年から呼称が「京都市京セラ美術館」となった。
改修を手がけたのは青木淳と西澤徹夫。リニューアルでは帝冠様式の重厚な意匠は残しつつ、現代の美術館として大きくアップデートされた。緩やかに広がるスロープ状の広場「京セラスクエア」とガラスのファサード「ガラス・リボン」、新館となる「東山キューブ」など、かつてない風通しの良さを感じる空間だ。
こけら落としでは、同館のコレクションの核である「京都の美術」を全国から集めて展示する「京都の美術 250年の夢」と、現代美術家・杉本博司による個展「杉本博司 瑠璃の浄土」を同時開催。「杉本博司 瑠璃の浄土」では、世界初公開となる大判のカラー作品シリーズ「OPTICKS」や、ガラスにまつわる様々な作品や考古遺物を展示するとともに、同館にある日本庭園に《ガラスの茶室 聞鳥庵(モンドリアン)》が設置される。
田根剛が設計。弘前れんが倉庫美術館(4月11日開館)
青森県弘前市にある元シードル工場・吉野町煉瓦倉庫が改修され、現代美術館「弘前れんが倉庫美術館(英語名:Hirosaki Museum of Contemporary Art)」として2020年4月11日に開館する。
同館の設計を手がけるのは、気鋭の建築家・田根剛。「記憶の継承」をコンセプトに掲げ、できるかぎり煉瓦倉庫の素材を活用し、その姿をとどめた美術館となる。美術館は大きく分けて、市民ギャラリーと3つのスタジオ(1階)、ライブラリー、ワークラウンジ(2階)が入るA棟、展示室が入るB棟、そしてカフェやミュージアムショップが入るC棟の3棟で構成。
気になる開館記念展は、「Thank You Memory −醸造から創造へ−」(〜8月31日)。同展では、シードル工場から美術館へと生まれ変わる同館の記憶に焦点を当て、アーティストたちの独自の視点でその記憶を再生。加えて、改修工事の記録に基づく作品や、地元の人々と協力して制作するサイト・スペシフィックなコミッション・ワークなどが並ぶ。
なお同展参加作家は、藤井光、畠山直哉、ジャン=ミシェル・オトニエル、ナウィン・ラワンチャイクン、笹本晃、イン・シウジェン、奈良美智、潘逸舟。その多くが新作を展示予定となる。
老舗美術館が一新。「SOMPO美術館」(5月28日開館)
1976年に財団法人安田火災美術財団が東郷青児から自作約200点と、東郷が収集した国内外の作品約250点の寄贈を受けて開館した「東郷青児美術館」を原点に、次々と名称を変更してきた「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」が、5月28日に同敷地内に移転。「SOMPO美術館」としてオープンする。
同館は、東郷青児の絵画をイメージした曲線が特徴的な建築。建物は6階建てで、1階がエントランス、2階がミュージアムショップと休憩スペース、そして3階から5階が展示室として構成される。総展示面積は約755平米。
開館記念展となるのは、2期にわたるコレクション展「開館記念展I 珠玉のコレクション一いのちの輝き・つくる喜び」(5月28日〜7月5日)と「開館記念展II 秘蔵の東郷青児-多才な画家の創作活動に迫る」(7月18日〜9月4日)。なお、同館を象徴するゴッホの《ひまわり》は、3階に常設展示される。
金沢へ移転。国立工芸館(20年夏開館予定)
東京・竹橋にある東京国立近代美術館工芸館が、「所蔵作品展 パッション20」(〜2020年3月8日)を最後に、金沢へ移転する。東京国立近代美術館工芸館は、東京国立近代美術館の分館として1977年にオープン。陶磁、ガラス、漆工、木工、竹工、染織、人形、金工、工業デザイン、グラフィック・デザインなど、近現代の工芸およびデザイン作品を展示紹介してきた。
今回の移転は16年8月に発表されたもので、新たに名称を「国立工芸館」とし、2020年の東京オリンピック・パラリンピック前のオープンを目指している。
移転では、重要無形文化財保持者(人間国宝)や日本芸術院会員の作品約1400点をはじめ、現工芸館が所蔵する美術工芸作品約1900点以上が東京から移るという。
なお国立工芸館は、国の登録有形文化財である旧陸軍施設の「旧第九師団司令部庁舎」と「旧金沢偕行社」を移築して活用。石川県立美術館や石川県立能楽堂と隣接し、文化ゾーンである「兼六園周辺文化の森」の一部となる。