中野岳「山を下す」

　Token Art Centerで、中野岳による個展「山を下す」が開催されている。

　中野は、これまで世界各地に滞在しながらその土地に存在する規範、習俗、儀式などと向きあい、一見固定化されてしまっているように思われるそれらのルールを流動化させ、変容する可能性のあるものとして作品中で展開してきた。遊びや連想ゲームのような発想、自身の遠い記憶などを大胆に挿入させることで、既存の固定観念を逸脱させながら、新たな物語を醸成している。

　本展は、数年前の中野の父の死にはじまっている。その後行った葬儀では実感を持つことができず、本当の意味で人を弔う行為とはどういうものなのか、中野は考えたという。

　現代の葬儀において行う一連の行為は定型化されていて、ある種のルールのようにとらえられる。形骸化した弔いをいかに流動化させ自身のこととして受け止めることができるのか。中野の過去作から本作までを見通すと、中野にとっての制作とは自身を含む現代を生きる人々にとって、疎外化されてしまった様々な行為を自身の生のなかでつくり替え、いかにとらえ直すことができるのかの試みだともいえる。つくり替え変容させるという制作行為が、個別の生へとつながっていく。

　本展は、2023年12月に愛知で開催された個展「山が下る」をもとに新作を追加し再構成した内容となっている。