レアンドロ・エルリッヒは1973年アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれ。視覚的な錯覚や音の効果を用い、鑑賞者の常識に揺さぶりをかけるような体験をもたらす作品を多数手がけており、日本では、金沢21世紀美術館に恒久設置されている《スイミング・プール》(2004)の作者として、その名前が広く知られている。
また、今年に入ってからは2018年に第7回の開催を迎える「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」に先駆け、新作《Lost Winter》を発表したことも記憶に新しい。
エルリッヒにとって、東京で初の大規模個展となる本展「見ることのリアル」は、エルリッヒの25年にわたる活動の全容を紹介するもの。全46作品のうち、8割が日本初公開となり、その規模は世界でも類を見ない。
約10年の構想の後に実現したという本展。森美術館館長・南條史生は「彼の作品にはある種の驚きがある。平凡な日常で、非日常な体験させれてくれるのが醍醐味。現代美術の魅力を広くとらえてもらえるのではないか」と語る。
また、担当学芸員の椿玲子は、本展の意図が「バーチャルなリアリティが浸透しつつある現在、実際に身体を用いてそこに偶然居合せる他者とともに作品を体験することの重要性」、あるいは「現代美術は難しいという前提を覆す革新性をもたらすこと」などにあると話す。「(レアンドロの作品は)私たちの思い込みを利用すると同時に、仕掛けがわかるようになっています。見ることで、鑑賞者は世界の成り立ちに興味を持つのではないでしょうか」。
本展では、船が暗闇の中でゆらゆらと揺れる《反射する港》(2014)からスタートし、「雲」をガラスに閉じ込めた《雲》(2016)などのほか、《試着室》(2008)、《教室》(2017)、《美容院》(2008 / 2017)、《建物》(2004 / 2017)などの体験型作品も多く展示。それぞれが見るものの常識を覆すような、驚きに満ちた作品だ。
エルリッヒ自身、「私のキャリアにとって最大の挑戦」と語る本展。「みなさんと情熱をともにして、拡散したい」というように、本展ではすべての作品が撮影可能となっている。
自分の体で体感することで、「見ることとは何か」「常識とは何か」を考えるきっかけとなるだろう。