「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(以下、大地の芸術祭)は「人間は自然に内包される」を理念に、6つのエリア(十日町、川西、津南、中里、松代、松之山)に数多くの作品を散在させる、日本における里山型芸術祭の先駆け的存在として国内外に知られている。
2000年の初回からの参加作家は合計で700組以上。10年以上をかけ、徐々にその展示作品数を増やしてきており、約150作品以上を常設で見られるのが特徴だ。
そんな「大地の芸術祭」は、2018年に第7回の開催を迎えるが、これに先駆けて、アルゼンチン生まれのアーティスト、レアンドロ・エルリッヒが新作《Lost Winter》を制作。8月5日から開催される夏のプログラム「『大地の芸術祭』の里 越後妻有2017夏」で公開される。
エルリッヒは、建築的なインスタレーションに鑑賞者が入り、その一部となって楽しむことができる作品を多く手がけており、「ホイットニー・ビエンナーレ2000」(ニューヨーク)をはじめ、「第26回サンパウロ・ビエンナーレ」(ブラジル、2004)、「リバプール・ビエンナーレ2008」(イギリス)など数々の国際展に参加。日本では金沢21世紀美術館の中庭に恒久設置されている《スイミング・プール》(2004)で、その名が一躍知られることとなった。また、今年11月には東京の森美術館で大規模個展も予定されている。
「大地の芸術祭」では、これまでも家屋の壁に人がへばりつくように見える《妻有の家》を2006年に、トンネルと豪雪地ならではの「かまぼこ倉庫」をモチーフにした《トンネル》を2012年に発表してきた。
今回、新たに制作された《Lost Winter》は、ある部屋の中に設置された窓を覗くと、そこには冬景色の中庭が現れ、予想外の場所に自分の姿が出現するというもの。これは、13年の「うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法(デザイン)」(東京都現代美術館)など、これまで世界各地で展示された《Lost Garden》がベースとなっているという。
この作品についてエルリッヒは「大地の芸術祭ではなかなか雪景色を体感してもらうことができないので、冬の名残りを見て感じてほしい」と話す。現在、この作品は時間が止まったような状態。エルリッヒはここに手を加え、時間の流れを生み出すという。
「木が風もないのに揺らいだり、フクロウが鳴いたり、日が暮れていったりするプログラムを加えるつもりです。自然史博物館などには動物がいるジオラマがありますが、ここには動物がいない代わりに、自分がいる。自分自身を見つめるのです。自然の環境だけを見せるというよりも、自然と人との関係といったものを見せる作品です」。
この作品が設置されているのは、廃校になった木造校舎をリノベーションした宿泊施設「三省ハウス」。エルリッヒ自身は、美術館ではない施設で作品を恒久設置することについて「美術館では、そこにあるものがアート作品だとみなされます。来場者と作品との間に見えないフィルターが入っている。私はそれよりも、瞬間的にわかる楽しさを重要視しています」と語る。
《Lost Winter》の窓から見える風景は、越後妻有地域の建築を参照しており、そこには豪雪地帯特有の「雪囲い」なども見ることができる。雪のない季節に、あるはずのない景色と出会う。そんな体験を、ここ三省ハウスで楽しんでみてはいかがだろうか。