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坂本龍一ロング・インタビュー。あるがままのSとNをMに求めて【2/4ページ】

「もの」そのものとの出会い

──楽器の音より、「もの」それ自体の、根源的な音に接近した理由とは?

坂本 影響があるとしたら美術家の李禹煥の作品、もの派への関心だと思います。いままでは、全然そういう気配はなかったと思うのですが(笑)。李さんの作品には強く惹かれるものがあります。僕は、1970年に東京藝術大学音楽学部に入学しましたが、学生のときは、ほとんど美術学部に出入りしていました。友人も美術の人たちばかりで、この頃から李さんや高松次郎1 *が大好きでしたね。

 高松さんの授業にも忍び込んで、美術の学生に混ざって、課題で針金のオブジェをつくったりしていたわけです。高松さんが多摩川の岩に数字を書いた《石と数字》(1969)なんかが大好きだったんです。そういう意味では、意識があの頃に戻っているのかもしれない。それでいま、ガラスの上に岩がドーンと置いてあったりする李さんの「関係項」シリーズのような感触の音を出したいという気分になっている。あの作品からはものすごくMを感じます。そういう音を求めて、コンタクトマイクをつけて「もの」をこすったりしています。ずいぶんプリミティブになっちゃってますね(笑)。

 もともとは、病気になった2014年にソロ・アルバムをつくろうとしていて、スケッチをしていたのですが、今回はその辺のスケッチを全部捨てて、ゼロからのスタートでした。今回の『async』が8年ぶりのアルバムですが、ほとんど10年に1枚のペースでしょ。この先75歳まで生きていられるとして、あと1枚つくれるかどうかなので、だったら本当に好きなことをやりたいと思いました。それは、ポップスでもないし、毎日のように弾くのはバッハですけど、聴くのはドローン系。もちろん若者の真似をする気もない。そこで「もの」を叩いたり、音を出して試行錯誤していました。

スタジオ内にある銅鑼。「もの」から出る音へのプリミティブな興味に立ち返っているという坂本のスタジオには、電子楽器と、叩く、こするなどして音を出す体鳴楽器が多く見受けられる

編集部

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