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「今津景 タナ・アイル」(東京オペラシティ アートギャラリー)開幕レポート。歴史、神話、環境が交差する今津景の世界

インドネシア・バンドンを拠点にしている今津景の大規模個展「タナ・アイル」が、東京オペラシティ アートギャラリーで始まった。日本とインドネシアのふたつの土地に根ざした経験と思考が反映された今津の作品を通じ、鑑賞者に自らの「生きる場所」を再考するきっかけを提供している。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より

 東京オペラシティ アートギャラリーで、今津景の大規模個展「タナ・アイル」がスタートした。会期は3月23日まで。展覧会担当は瀧上華。

 今津は、インターネットやデジタルアーカイヴから得た画像をコンピュータ・アプリケーションで加工し、その下図をもとにキャンバスに油彩で描く手法で知られている。2017年からインドネシアのバンドンを拠点にし、近年はインドネシアの都市開発や環境汚染といった社会的な問題をテーマにした作品を多く発表している。

展示風景より

 本展のタイトル「タナ・アイル」は、インドネシア語で「タナ(Tanah)」が「土」を、「アイル(Air)」が「水」を意味し、両者を合わせると「故郷」を意味する。日本という故郷と、現在の拠点であるインドネシアのふたつの土地に根ざした経験と思考が反映された今津の作品を通じ、鑑賞者に自らの「生きる場所」を再考するきっかけを提供している。

 本展では、インドネシアの歴史や神話、環境問題といった多様なテーマが取り入れられた作品を紹介。例えば、最初の展示室では「Anda Disini/You Are Here」と「Bandoengsche Kinine Fabriek」をテーマにした作品群が展示されている。

展示風景より、「Anda Disini/You Are Here」と「Bandoengsche Kinine Fabriek」をテーマにした作品群

 前者は、2017年にインドネシア・バンドンでのアーティストインレジデンスをきっかけに制作された作品だ。今津がバンドン近郊のゴア・ジパン(旧日本軍の要塞洞窟)を訪れ、そこで見た過去の厳しい労働の掘削跡から強い印象を受け、日本軍がインドネシア人に与えた苦しみを感じた。展示室には、大きな洞窟の写真や、日本軍、インドネシア人の労働者を思わせる人物が描かれた絵画が展示され、インドネシアでの生活における作家の葛藤が表現されている。

左から《Anda Disini》(2024)、《Anda Disini/You Are Here》(2019)、《Pithecanthropus erectus (Remake)》(2024)

 いっぽうの「Bandoengsche Kinine Fabriek」は、バンドンにおけるキニーネの歴史をたどる展示だ。キニーネはマラリアの特効薬として知られ、19世紀末にはバンドンが世界一のキニーネ生産地となった。オランダ政府主導で建設されたキニーネ工場は、第二次世界大戦中に日本軍に接収され、後にインドネシアの国営製薬会社となった。インスタレーション作品《Bandoengsche Kininefabriek》(2024)は、マラリアの感染経路の一部として蚊が人の体内に入り、血流を通じて繁殖し感染が広がる様子を表現した作品。また同作には、キニーネ工場に関する資料やトニックウォーターや精力剤として商業化されたキニーネの側面も組み込まれている。

展示風景より、中央は《Bandoengsche Kininefabriek》(2024)
展示風景より、《Bandoengsche Kininefabriek》(部分)

編集部

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今津景 タナ・アイル

2025.01.10 - 03.22
東京オペラシティ アートギャラリー
新宿 - 四谷 - 中野|東京