三輪さんのモノづくりは、たんなる趣味に留まっていない。認知症予防につながるという考えから、手先を動かすことに着目。しかし、やがて「人と触れ合うこと」こそが認知症予防には不可欠だと悟った。
それからは、作品を通して多くの人との交流が生まれた。これまでに200点以上の作品を完成させ、その一部は市内の社会福祉会館や病院といった施設に寄贈してきた。牛乳パックや広告、サランラップの芯などを活用し、オリジナルの作品を次々と生み出している。1階の倉庫には、これまで手がけてきた牛乳パックとチラシでつくった無数のペン立てが並ぶ。「同じことをやっていると飽きてくるから、モノづくりの気晴らしにモノづくりをやっている」と笑う。とくに、高さ55cm、横幅45cmの観覧車「ドリームスカイ」は、静岡市内の商業施設であるドリームプラザにあるものを参考に、3ヶ月かけてその原型を制作した力作だ。この「ドリームスカイ」は、これまでに同じものを10個以上制作し、社会福祉会館や病院などに寄贈してきた。長く飾っておくと色が変化してしまうため、定期的に部品をつくり直して交換するなど、作品への愛情は尽きることがない。


最近は腰の痛みで歩くのがつらいと感じることもあるという。それでも、「何にもやらないと人間はダメになっちゃう」という信念のもと、朝と昼の食事は自分で支度をするなど、手先を動かす日々の動作を大切にしている。
今後の夢や目標について尋ねると、「とくにはない」と三輪さんは答える。しかし、つくった作品が古くなれば交換してあげる、というスタンスで、つねにモノづくりに挑戦し続ける姿勢は変わっていない。
「手先が器用じゃなきゃできなかった」と語る三輪さんの作品は、たんなる工作の域を超えている。「自分でつくったことに意味がある」という職人気質なモノづくりは、これまでの人生経験と暮らしの中の知恵が凝縮されたものだと言える。三輪さんによれば、これまで一度も公募展などには出展したことがないという。誰かに見せびらかすのではなく、ただ自分と向き合い、長い時間をかけて制作を続けてきた。
帰り際、玄関先の壁には亡き妻のタペストリーが飾られているのを見つけた。三輪さんは「定期的に入れ替えているんだよ」と教えてくれた。よく見れば、牛乳パックのペン立てなどの周りに使われているのも、妻が手芸で使っていた布を転用したものだ。嗚呼、妻から刺激を受けて始めた三輪さんの制作には、未だ奥さんの魂が宿っているようだ。



















